せきとば

ザ・メニューのせきとばのレビュー・感想・評価

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
3.2
手品を見た時に驚くよりも前にタネを明かそうとする人のおもんなさときたら燃えたぎる百年の恋も冷えきって見事に全球凍結するレベルだ。これはまさに小6の頃学校のお楽しみ会でマジックをすることになっていた僕と、目を見開いて凄い形相で”タネ”を見にきた、さっきまで可愛かったはずのあの子においての実話なので間違いない。

体験とは兎にも角にも全ての神経を渡って心の奥底に到達したものをその身を持って(圧倒されブチ倒されながらも)感じることが重要で、頭でっかちなインフォメーションに目を通して理解したつもりになることではない。

まぁこれはこんな所でせこせこと文字を打ち込んでいる陰気で猫背な自分にこそ言わねばならぬことかもしれないけど、それ以上にたとえば映画を見て、自分の感想を持つ前に他人の感想をカンニングして、それをまるで自分が閃いたかのように盗んでいく行為や、なんなら先にネタバレを読んでから鑑賞せんとする下品な行動にこそ刺していかねばならないテーゼだ。

一方アートとは魔法なのかという点についてはそうとも言えないだけの反駁余地があるし実際に疑問も生まれる。むしろ魔法とは到底程遠い泥臭い我々人間の営みが魔法的な感覚を生み出すことこそ素晴らしいものであると言い換えることも可能だし、アート至上主義として芸術の力だけを盲信することで逆に失ってしまうものもある。それを成り立たせているコストが何なのか、正しく現実的にものを見定めるべきタイミングだってある。そういう機敏まで守りたければ、付随してそこにタネがあるだろうという前提でそれと対峙する事も一定認めねばならない。そうでなければ囚われで、結局は同じ穴のなんとやらなのである。

この映画は昨今の情報社会のうざったさに対してあの手この手でシニカルな皮肉をぶつけてくるが、最後まで見ればそれらがどうなったかは”火を見るより明らか”だろう。そんな中で通底しているのは徹底的に自由であれるかということで、結局はどの立場にしたって自由でなければコインの表裏でしかないということだ。

つまりこの期に及んで「俺もチーズバーガーで充分だけどな」なんて言ってたら、あんた自身もバンズに挟まれちゃいますよ…ってことですよ!
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