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ザ・メニューのjellyfishのレビュー・感想・評価

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
4.0
今年始まったばかりだけど、今年のtop3に入るかもしれない…
それくらい強烈に私のストライクゾーンを撃ち抜かれました!

ネトフリで配信されている、「シェフのテーブル」を見るとより面白いですよ!
料理の撮り方なんてそのまんまだし、高級レストランの厨房の裏側なんかを事前に知っておくと楽しいです!

以下ネタバレです~

高級レストランが持つ“ブラック企業”ぶりを逆手に取ったほんとに面白い映画でした!
こういったレストランで働くのってめちゃくちゃブラックなんですよ。
開店前の仕込み、常に最高を求められる厨房、閉店後の店じまい、明日の準備
スタッフ達はいずれ独立して自分の店を持ちたいから、働くかたわら自分の料理の腕も磨かないといけない。
寝る時間はほとんど無いし、残業代も出ないところが多いみたいです。
でも、有名なシェフの元で働けば“箔が着く”から、ブラックと知っていながらスタッフは集まるんです。
で、結局どうなるか?
この映画みたいに精神的に追い詰められ、シェフを妄信的に信じる“信者”の出来上がりです。
シェフはまるで新興宗教の教祖ですね。
このブラック労働ぶりがこの映画のミソだと思います。
実際、いわゆる高級と言われるレストランで働いてる人はこの映画を見て笑えないと思います。「自分達の日常そのままじゃないか」って

サービスする側とされる側の話しも良かった。
スタッフは客全員の名前を覚えているのに、客はスタッフの名前も顔すらも覚えていない。
(警察?が実は変装したスタッフだったシーンなんて最高でしたね)
何回も来店しているのに1品も料理を覚えていないくそじじい(すいません笑)
客はサービスされるのが当たり前になってしまい、サービスの質だけがどんどんインフレしてる感じ、日本もそうですよね?

高級料理ならなんでも求め、シェフを狂信的に崇める客(ここにも信者がいましたね笑)
人が死のうが何をしようが自分の興味あるものしか関心がないのは、ある意味現実と向き合っていない恐ろしさがある。
アニャが「普通に食べさせて」って言ってましたけどほんとにそうで
昨今の“ガストロノミー”と言われる料理への皮肉だと思います。
(土とか藻とか食べるやつ)

あー、あのうんちく彼氏が厨房で料理させられたシーンも良かった笑
自称評論家気取りの末路でしたね。
同じものは絶対作れないのに、そんな技術も無いのに、“評論家”とやらがレストランの価値を決めることへの苛立ち。
「私がこの店を見出だした」なんて、失礼しちゃう

で、シェフはやんなっちゃったんですよ
自分を取り巻くぜーーんぶが。
作っても作っても客は味なんか覚えてないし、常に斬新なものを求められるし、自分の努力とは関係ないところで評価されるし、やっと取れた休みに見た映画はくそつまらないし(あれは八つ当たりだ笑)

まさに、一夜限りの復讐のコース

シェフとアニャの最後のやり取りが私は好きなんです。
「お腹がすいてるの」
「どれくらい?」
「ペコペコ」
この人は、ちゃんと料理が好きで自分が作った料理をただ「美味しい」って言ってもらえるだけで満足なんだなって。
「お腹が空いたから何か作って欲しい」なんてきっと何年も言われてなくて、だからこそ嬉しかったんだと思う。
ただ目の前の客のお腹を満たすために純粋に料理ができる、その幸せを噛みしめるような表情をしていた。
(アニャは“サービスをする側”だから、どう言えば料理人としの心を動かせるか、分かったんでしょうね…)

「ノーマ」が一旦閉店するというニュースが料理界を賑わせていますが、その理由は劣悪な労働環境の改善をするためと言う話しも聞きます。
本当に、この映画の舞台となったようなレストランは存在するし、そこで働いてる人達もいる。笑い事じゃ済まされない業界があるのは事実です。

エンターテイメントとしては、スタイリッシュで美しい映像とブラックユーモアが最高にマッチした最高に私好みの映画でした!

高級料理よりやっぱり10ドルで買えるチーズバーガーがいい!なんて単純な映画じゃないんですけど、でも、チーズバーガー食べたいぃ!!
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