みやび

FALL/フォールのみやびのレビュー・感想・評価

FALL/フォール(2022年製作の映画)
4.0
「地上600mの鉄塔における高所サバイバルを疑似体験できる。」というレベルを超えて、《新しい映画体験》を味わえた!

「あれはどうなの?」「これはどうなの?」と、ちょいちょいツッコミどころはあるが、凄まじい没入感を得られた。

”設定”、”〇〇を試みる方法”、”〇〇の詰め”の3つが完璧だったなら、スコア4.5を付けたいくらいエキサイティングな作品。


山でのフリークライミング中に夫を落下事故で亡くしたベッキー(グレイス・キャロライン・カリー)は、1年が経った現在も悲しみから立ち直れずにいた。

親友のハンター(バージニア・ガードナー)は、そんな彼女を元気づけようと新たなクライミング計画を立て、現在は使用されていない超高層テレビ塔に登ることに。

2人は老朽化して不安定な鉄塔をのぼり、地上600メートルの頂上へ到達することに成功するものの、突然ハシゴが崩れ落ち、2人は鉄塔の先端に取り残されてしまう。といった内容。


よく「手に握る作品」などと言うが、そうそう手に汗なんて握るものではない。

しかし、この作品はまるで違う。


《本当に手に汗握る》。

いや。


手どころか、《足にまで汗を握る》。

こんな体験は初めてだ。


開始38分で、まさかの絶対絶命。

ここで、体温が上がり全身が火照ってくるような感覚を覚えた。

怖い。

怖すぎる。。


いわゆる”ホラー映画的な怖さ”とは異質の、高所という《脳の防衛本能からくる怖さ》。


僕自身の趣味で、険しい崖のある磯や、秘境のような場所で何度も釣りをしているが、まさにこの作品に出てくる「錆で崩れ落ちそうなハシゴ」や、潮風に長年当たって「風化した建造物」を渡ったりした経験とイメージが重なり、さらなる恐怖を感じた。

グラグラしてるハシゴ、ネジが取れているハシゴの怖さはヤバい。さらに高所ともなれば突風も怖い。


この作品では、高所を上手く見せる演出が効いていて、その映像を観ながら力が入りまくった。いや~、スゴい!


素晴らしい映像に反し設定には、ややツッコミどころも。


まず、チャレンジの生命線となる食料や飲料の準備ほか、ガジエット系の装備が甘すぎる。

だからこそピンチに陥り、この作品が成り立っているわけだが。笑


600mの高さまでのぼるのに、いくら軽量化が求められるとは言え、飲料水とエネルギー源が足りなすぎる。

どれだけの時間をかけてのぼり、おりてくるかの時間を見積もるだけでも、もっと必要。

僕はこんな高い所にのぼる挑戦はしないが、トレイルランやフルマラソンをやるので、水分とエネルギーはかなり計算して補給する。

鉄塔の上に取り残されないとしても、全く不足しているとしか言いようがない。


また今回、「本来の自分や自身を取り戻す」という大目標とともに、「SNSにアップする」ことも目的としているはずなのに、あらゆる場面で電源対策を考えてなさすぎる。

僕もYouTubeをやっていて屋外で撮影をするが、1日中船の上とか、丸2日間、車から遠く離れた磯場とかで撮影することもよくある。

ガジェットを使う上で一番重視するのがバッテリー。

GoProやOsmoActionなどのアクションカムも予備バッテリーを複数、充電ユニットも持っていくし、モバイルバッテリーも30000mAhの大容量のものをはじめ3つ携帯する。

それが、近くの公園に行くような装備で行き、あの鉄塔に挑むところがまた、ある意味エクストリームな挑戦。


エクストリームと言えば、スノボで岩肌が出ている断崖絶壁を滑り降りたり、とんでもない高所から降り立ったりする、アメリカ人が大好きそうな【エクストリーム・スポーツ】があるが、「普通に考えて怖すぎだろ?」とか「命危ないのに、なんであんなことするんだろう?」と僕ら日本人の多くは思うだろう。

本作の”鉄塔のぼり”もそう。


けれど、多くの日本人とアメリカ人は先天的に脳の構造が違うことが分かっている。


人が不安を感じることに影響を及ぼす「セロトニン」という神経伝達物質があって、この分泌量を左右するのが「セロトニントランスポーター遺伝子」。これが俗に「不安遺伝子」と呼ばれる。

「不安遺伝子」はセロトニン分泌量の少ない「S型」と、分泌量の多い「L型」の2種類があり、これらを組み合わせた「SS型」「SL型」「LL型」という形で分類される。

「SS型」の遺伝子が多いと不安を感じやすく、「LL型」の遺伝子が多いと楽観的になる。「SL型」はその中間。

日本人は「SS型」が65%と圧倒的に多い。「SL型」は32%で、楽観的な「LL型」はたった3.2%しかいない。

一方、アメリカ人は「SS型」が19%で、「SL型」が49%、「LL型」が32%と、まるで逆。


つまり、日本人は不安や恐怖を感じやすい民族。
アメリカ人はどちらかというとメンタルが強い民族。

なのでアメリカ人は、危険な挑戦をすることが多い。笑


長く脱線してしまったが、作品に話を戻そう。


ツッコミどころを見渡すと、

「もっと、近いところにロープ投げたら?!」

とか

「スマホのバッテリー持ち異次元じゃね?!」

とか

「基礎はあってもワイヤー数本であの高さの建造物の直立を維持できる?!」

とか、いろいろある。笑

この辺りをしっかり作り込んでくれていたらうれしかった。


あと、ラストね。

本当に惜しい。
〇〇シーンを丁寧に描いて欲しかった。


と、ダメ出しもしてしまったが、その辺を差し引いても《手に汗握りまくる作品》だったことには違いない!

脳に刺激を与えたい方は、一見の価値あり。
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