MasaichiYaguchi

オルガの翼のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

オルガの翼(2021年製作の映画)
3.9
ウクライナのユーロマイダン革命を背景に、生きる為に祖国を去った15歳のオルガが自らの運命を切り拓いていく姿をドキュメンタリータッチにリアル描いたドラマは、他人ごとではない現在進行形の現実を我々に突き付ける。
2013年のキーウ、体操選手のオルガは欧州選手権出場を目指し練習に励んでいたが、ヤヌコービチ大統領の汚職を追及するジャーナリストの母と共に何者かに命を狙われ、ウクライナを離れることになってしまう。
父の故郷であるスイスのナショナルチームに入った彼女は、変わり果てていく故郷の様子をSNSを通じて目撃する。
家族や友人が傷つく姿を遠くから見ることしかできない中、オルガ自身は欧州選手権出場の為にウクライナの市民権を手放さなければならず、葛藤と焦燥に苛まれる。
本作は、監督・脚本を務めたスイス出身のエリ・グラップが、ウクライナのバイオリン奏者からユーロマイダン革命の話を聞いて心を動かされ、製作に着手し、脚本執筆から5年をかけて完成させている。
ヒロインのオルガを演じたアナスタシア・ブジャシキナを始めとする、選手役のキャストにはプロのアスリートたちをを起用し、体操シーンの撮影は練習のペースに合わせて行われているので、ドキュメンタリーかと見紛うほどにリアルだ。
更にPCやスマホに浮かび上がる「ユーロマイダン革命」における独立広場の惨状は、デモに参加した人々が携帯電話で撮影した実映像だけを使っているので、当時の状況が真に迫ってくる。
明日が見えない状況下、どんなに痛みが伴おうとも前に進もうとするオルガの姿が静かに胸を打ちます。