真一

GOの真一のレビュー・感想・評価

GO(2001年製作の映画)
4.9
 「どうして何の疑問もなく『在日』なんて呼べるんだ。『在日』と呼ぶということは、オレのことを『いつかこの国から出て行くよそ者だ』と言っているようなもんだ。それを分かって言っているのか!」

 ラストシーンで、在日韓国人の青年・杉原(窪塚洋介)が日本人の彼女・桜井(柴咲コウ)に向かって放った言葉だ。グサッと刺さった。自分が叱られている気がした。私たちが時折口にする「在日コリアンの人権を考えよう」などという陳腐なフレーズの裏に、支配する側に立つ日本人の差別意識がある事実に気付かされたからだ。叱られて当然だと思った。

 本作品から伝わってくるのは「人の価値は、国籍や名前で決まらない」というメッセージだ。桜井は、杉原が在日だと知って露骨に嫌な顔をする。これに対し、杉原はこう声を荒げる。

 「名前なんて何でもいいよ。マムシでも。サソリでも。エイリアンでも。でもオレは自分のこと、エイリアンだなんて思っていないからな」

 「オレは在日でもエイリアンでもねえんだよ。オレはオレだ。いや、オレはオレであることすら捨ててやる」

 杉原の魂の咆哮を浴びた桜井の心に、変化が起きる。そして、吠えた杉原の内面も大きく変わる。桜井は自分の差別意識に気付いた。杉原は、自分の大事な思いを桜井に伝えることができた。2人の間に真の絆が芽生えた瞬間だった。圧倒的なリアリティーと迫力!まだ20代前半の窪塚洋介と柴咲コウの熱演に、引き込まれます。彼氏の父親を演じた山崎努の怪演も光ります。

 日韓併合。植民地支配。関東大震災時の朝鮮人虐殺。終戦後の混乱と朝鮮戦争。戦後の指紋押なつ制度。ネットにおける在日ヘイトスピーチ―。過去から現在に至る在日コリアンのこうした歴史と現実を、私たち日本人は一体どの程度学んできたのだろうか。何も知らずに過ごしてきたのではないのだろうか。私たちに真実を教えようとしない日本社会そのものに、レイシズムが深々と根を下ろしているのではないか。在日コリアンの杉原に焦点を当てた本作品を観ると、こんな思いに駆られます。

 朝鮮籍から韓国籍に転じ、民族学校から日本の私立校に進学し、けんかに明け暮れた杉原。その杉原の怒りの言葉を、より美しく表現したフレーズが「ロミオとジュリエット」の一節に登場します。

 「名前って意味あるの?バラと呼んでいる花を別の名前にしてみても、美しい香りはそのまま」(ジュリエット)

 この一節に視線を落とした杉原の目から、涙がこぼれます。私たちが学ばなければいけない真理は、ここにあると痛感しました。原作・金城一紀。監督は行定勲。多くの方に観てもらいたい衝撃作です。
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