トゥーン

灼熱の魂 デジタル・リマスター版のトゥーンのネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

母親の壮絶な過去に、なんて壮絶なんだと感情が揺さぶられることはなく、事実が事実のまま語られる映画。
冒頭のシーンは良かった。頭を刈られ、足のあざが映される。どんなに頭を動かされても、目はカメラをじっと見つめている。ずっとずっと見つめている。何を見つめているのかは、ラストショットから推測するに、いなくなった母親の存在だろう。
問題となるのは、現在と回想の挿入の仕方である。現在で、父と兄を探す話になったら、まだ話も手がかりも見つかっていない状態で、回想が始まる。回想よりも現在が遅かったり、早かったりと真相を追っかけている感じは全くない。明らかになっていくというよりは、事実が淡々と提示されていく感じが強い。
キリスト教徒とイスラム教徒で愛し合った母のせいで、報復合戦が始まり、中盤のバスシーンに至る。このバスシーンになって、ようやく暴力描写が入る。それまでは特に痛みはない。バスシーンの秀逸さは、突然始まる暴力とロングショットでの子どもの殺害にある。特に、後者の引きによる、ありふれてしまっている残虐性をまじまじと見せつける。信仰のない母だけが助かるという、皮肉もある。
暴力を暴力のまま描いた暴力シーンはここだけである。他は、語りで済ませてしまうことが多く、心にダイレクトに伝わる痛みはない。
レイプシーンがもったいないと感じたのは、母がレイプされたという事実を現在で触れたあとに、回想で描く。その回想もレイプ前後のみのため、この構成なら排除するか、構成を入れ替えたりサンドイッチしたりしたほうがよかった気がする。
そうして、オチに至るわけだが、出産シーンで二人目が生まれますというセリフで、レイプによる子どもが姉と弟ということになる。そうすると、探している兄は存在しないか、いるとしたら…。
この映画自体、オチ映画ではないので、予想がついてもいいのかな。
冒頭で生まれた子どもが兄であり、父であった。母としては、愛してもいないレイプ拷問人という父の間の子ども、姉と弟を愛し尽くすことは出来ない。それは、弟の母親失格発言からも分かる。しかし、その父が自分の唯一愛した男の間に生まれた息子、兄だとしたら。愛の結晶であり、死んだと思われていた兄。そして、レイプ犯の子どもだと思われた姉と弟は、その愛を受け継いでいた。あらゆる罪を抱えた、抱えざるを得なかった、抱えさせられた人たち全てを赦し、愛する。
こうして事実を書いていくと、とてもよく出来た話だと思うが、映画としては現在と回想の交錯のタイミングや母と姉の顔が最後まで同じに見えること、流れる洋楽が映画の雰囲気に合っていないことなど、面白くない。戯曲が元となって作られた映画なので、戯曲向きの内容かもしれない。
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