トゥーン

湖の女たちのトゥーンのレビュー・感想・評価

湖の女たち(2023年製作の映画)
4.5
私たちは生を全うしているのだろうか。
支配と被支配に抗う。圭介の死ねと言われたら死ぬのかという言葉は、そのまま戦争時の支配と被支配にオーバーラップしていく。そしてそれは薬害事件や731部隊などの分かりやすいものではなく、子供による思考の浅さによる犯罪がこの映画では表出している。闇は目に見えないところにまで侵食している。そんな人間の弱さやどうしようもなさ、そこからいかに抗い、生きていくのか。波風立てぬように過ごし、圭介と佳代のように文字通り服従する者もあれば、松江のように心で服従してしまう者もいる。自由なはずなのに、生産性を追い求め、ブラシーボを忘れる。生きているのに、死んでいるようだ。永遠に暇つぶしの生活を送る。湖に深く沈んでいくことで、死を味わうことでようやく生きるを、命を知る。それは堕ちていくところまで堕ちていったことで魂の叫びを知る松本も同じだろう。だからこそ、人間は美しい。佳代は今までの負の歴史を、松本は介護士が紡いできた仕事としての歴史を背負って叫び声を上げる。それでも生きると謳う人間は輝いている。
平等を重視するあまり、心を失う。政治とか、クィアとか大きくて分かりやすいものに目を向けるあまり、本当に大事な部分を見落とす。子どもたちは蟻を潰すような遊び感覚で非人道的な行為に走っていただけなのだ。複雑なようで単純。単純なようで気づきにくい。本来、映画が語るべきものはこういうことなんだと突きつけられる。
自分の想いを相手に伝えない心のざわめきは、やがて美しささえも奪っていく。
湖には負の歴史が奥深くで漂っているはずなのに、こんなにも美しく目に映る。それは恐ろしくもあり、原罪を背負いながらもそれでも生き抜く人間の力強さも感じる。
命が果てていく中で、何を残していけるのだろうか。何を守っていくのか。ヒーローのような正義が消えた現代で、一つの美しさを教えてくれる。いつまで他者の視線を気遣いながらおどおどしているのだろうか。私たちは勝たねばならない。
交差点に突っ込むワンカットは恐ろしかった。カット割りや映像の暗さ、手持ちなど、映像の作り方が好き。
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