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エゴイストのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

エゴイスト(2023年製作の映画)
4.2

(雑感、書き込み中)

この2週で、待ちわびていた新作が続々と公開されている。デイミアン・チャゼル「バビロン」もルカ・グァダニーノ「ボーンズ・アンド・オール」もパク・チャヌク「別れる決心」も未だ観てない。うずうずしている。

妻に「別れる決心」を見たいと告げると「そっち系は興味がない。」とバッサリやられた。続けて「エゴイスト」が見たいと言う。 新作鑑賞をする上で参考にしている或る新作お薦めランキングでも、トップでは無いが挙げられていたので気にはしていた。交渉の結果「バビロン」→「エゴイスト」の2本鑑賞で決着した。

◆◆あらすじ◆◆

14歳の時に母を亡くした浩輔は、田舎町でゲイである本当の自分を押し殺して思春期を過ごし、現在は東京でファッション誌の編集者として働きつつ自由気ままな生活を送っている。そんなある日、浩輔は母を支えながら暮らすパーソナルトレーナーの龍太と出会う。浩輔と龍太はひかれ合い、時には龍太の母も交えて満ち足りた時間を過ごしていく。母に寄り添う龍太の姿に、自身の亡き母への思いを重ねる浩輔。しかし2人でドライブの約束をしていた日、龍太はなぜか現れず……。
◆◆

「エゴイスト」の前半は、丁寧に繊細に撮られた良質な恋愛映画。
ひと目見た瞬間から何か特別なものを感じ、互いに惹かれ合っていき距離を縮めていく。その胸の高まりは異性愛だろうと同性愛であろうと同じ。
主演二人の佇まいが王道の恋愛物語を高次元なものにしている。

いつも通っている映画館、僕が好む作品のせいなのか普段は3割〜4割程度の客の入りだが、本作「エゴイスト」の客席は7割程度埋まっていた。ほぼ女性、普段あまり見ない20代と思わしき女性も多数いた。男性一人のお客さんも二、三人確認できた。
男性のお客さんはもしかしたら同性愛者の方もいたかもしれない。女性同士で来られた方は、いわゆる(この言い方は問題あると思うが敢えていうと)腐女子的な受容で本作を鑑賞していたのかもしれない。
どんな視座を持った観客も満足するような素晴らしい作品だった。

ただ一点、正直に言うと、生々しい性描写が度々登場し、少し戸惑った。のだけれども、これは異性愛者として無自覚に育ってきた者の傲慢な考えなのかもしれない。

(これも包み隠さず言うと)僕はそれこそ中高生の頃から何度も何度もアダルトビデオや映画などを介して男女のセックス摂取してきた。そしてこれは普通の男子中高生がやっている事だと思っていたが「異性愛者に限る」という条件付だったのかもしれない。
性的に自分の望むものが、レンタルビデオであれ友達からの貸し借りであれ容易に、手にし鑑賞できたのだ。当たり前の事だと思ってきたが恵まれていたのだと実感した。



では同性愛を自認している人が、これまでの日本で同性愛を描いたコンテンツを望むままに鑑賞できたのかというと、そんな事は決してないだろう。彼ら彼女らは、その中で描かれる性描写に戸惑ったり、「求めているのさこれじゃない」と失望していたかもしれない。
性描写に限らず映画・ドラマ等で描かれる異性愛者の恋愛模様に自己投影したり感情移入できずにいたという事もあるだろう。

これがスタートだ。本作で描かれる同性愛のセックスは、中規模映画の中で堂々と描かれるメルクマール(「窮鼠はチーズの夢を見る」とかもあったが)であり、商業的成功や内容の高評価を獲得し、後に続く作品が作られるだろう。

前半はそんな事をあれこれと感じていたが後半の展開がさらに素晴らしいと感じた。
出会って、惹かれ合い、付き合う二人の関係性から、3人目の龍太の母親の登場で社会が浮かび上がる。
こうすけ都会の高層マンション、広いリビング、整然と置かれた家具や高級雑貨。対して、龍太と母親が住むアパートの狭さが強調され、経済的な格差が存在することが可視化される。
そして、何度も登場するお金の場面。浩輔は龍太に対し、金銭的援助をする。最初は自宅デートの別れ際に、お母さんへのお土産として龍太に高級店の手土産を渡す事から始まり、次第に現金を渡すようになる。
早くに母親と死別し親孝行する機会を逃した浩輔は、母親の政活費を支える龍太に感心すると同時に、自身の母親への思いを投影しているのだ。
龍太の何倍もの収入を得ているであろう浩輔が、現金を渡す事で気持ちを表現する事に傲慢さを感じずにはいられなかった。この映画のタイトルでもある「エゴ」が浮かび上がる。愛はエゴなのだ、という今作のテーマ。

そこから、
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