いのりchan

エゴイストのいのりchanのレビュー・感想・評価

エゴイスト(2023年製作の映画)
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 「まなざし」が交錯しそうでし得ない、その些細な機微と、肩が触れ合うまでの距離感。そして、龍太が浩輔に別れを告げるまでに反復される玄関でのシーンの龍太の顔の強張りと、その後の変化がふたりの関係性の進展を描いていた。
 「燃ゆる女の肖像」は彼女たちが居る風景を引きで写していたけど、本作は引きの場面が少ない。浩輔が龍太の顔を見るとき、龍太の顔は映らない。逆もまた然り。彼らが並び立つとき、隣に座るとき、はじめて彼らの視線が交錯し・交錯しきらないことを我々は垣間見る。「エゴ」を冠する表題どおり、おのおの個人の選択やあり方を表しているような。背中で語り続ける浩輔の姿が印象的だった。
 でも、でもねえ! ごめん、これはほんとうにねえ。
 阿川佐和子氏が“““強過ぎ””"る映画としてほんとうにヨ過ぎました(大味すぎる言語化)。
 龍太との別れ迄を描くのであれば、ふたりの関係性が消費されてしまうような終幕になっていたと思うけれど……この物語は「その後」を描くことに注力していて。
 「何食べ」に描かれるような「ふたり」でいることを選択して戦略的に生き抜くさまではなく、「流れ着いたようでいて、確かに選択を踏んできた(けれどそれはこれまでの生い立ちや選択によって)」ということが、「恋に落ちる」ことを描いていたけれど、でも、その後の龍太の母親と浩輔の関係性は、たとえば合間合間に挟まる友達パートで言葉を尽くして語られることなどで「物語」として過度に彩られることなく、「愛」だと示されたという。
 「ごめんなさい」は「自身の欲望の歪さ」を認め、それでも「エゴ」を貫き通す自分自身(ego;自我)をどうしようもないほど理解っているひとの言葉だから。
 まだ言語化がひどく観念的で悔しいのだけど、いや、阿川佐和子氏が強過ぎる(ほんとうにありがとうございました)。