げげげんた

エゴイストのげげげんたのレビュー・感想・評価

エゴイスト(2023年製作の映画)
4.2


新宿という土地柄もあり、女性のお客さんが7割ぐらいで、3割ぐらいはゲイっぽいお客さんだった(自分もゲイなので見た目や雰囲気でだいたい判別がつきます)。で、エゴイストは完全にそんな「うちら」の映画だった。

とくに鈴木亮平演じる浩輔の再現度が高すぎて…ハイブランドを「鎧」として身につけること、ちょっと軽薄な喋り、ゲイ友といるときのデフォルトよりちょっと「強め」な喋り方、父親との関係性、アイブロウペンシル…ゲイであれば多かれ少なかれどこかに自分を投影したはず。

(鈴木亮平さん自身当事者との対話をたくさん行い、演技指導にも当事者の方が入っていたようなので、本人の努力とスタッフのサポートが素晴らしかったということですね。拍手!)

そんな「超リアル」な鈴木亮平に対し、宮沢氷魚演じる龍太はどこか儚く、浮世離れした所作や雰囲気で、とても魅力的な笑顔は、天使か、さもなくば悪魔を思わせる存在だった。

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タイトルの「エゴイスト」のとおり、浩輔が経済的に苦しい龍太母子を金銭的に支援するという「エゴ」を軸に物語が進んでいく。
ここには個人的には様々な疑問が湧くところで、
例えば
・特に見返りも求めずに龍太にお金を渡す理由は?
・龍太の死後母にお金を渡していたが、自分自身かつかつな中であのままずっとお母さんが生き続けていたらどうするつもりだったのか?
・毎月お金を渡していたことは母に伝える必要があったのか?
・本人たちの中ではどう折り合いがついているの?いわゆる「パパ活」や「サポ」とは何が違うの?等々。

でもそれは傍から見たらそうなだけで、終盤の阿川佐和子演じる妙子の「受け取った側がそれを愛と感じるかどうか」のセリフがすべてなのかもしれない。
龍太母子が浩輔の行為をほんとうに愛だと感じたのかはわからない。多少なりとも申し訳なく思ったり卑屈に感じてしまうだろうし、金持ちが貧乏人を馬鹿にして、と腹立たしく思っても普通におかしくなく、そういう部分が物語の中でも滲み出ていた気もする。が、上記のセリフから「そういうことにしておくわね、それでいいでしょ?」的な優しさと愛を感じました。

そう考えると、わかりにくいだけでこの世の愛はすべてエゴありきなのかも。
親は子供には「無償の愛を注ぐ」というけれど、楽しいことばかりではなく下手したら地獄である可能性のあるこの世に子供を連れてきたのは、ある意味親のエゴ。
(やや拡大解釈ではあるが、浩輔側の動機も、単に早くに母親を亡くし親孝行できなかったからだけでなく、ハイブランドの鎧の内側にある脆くて繊細な自分、Giveし続けなければ愛されない的な強迫観念?を解消するためだったのかも、と同居を断られたときのシーンで思うなどした。)

「エゴ」ってネガティヴな意味で使われがちだけど、「自分がしたいからする!」が動機で、受け取る側もそれを愛と捉えられるならば、それって最強だよね。

その他つらつらと感想を。
・龍太だけでなくお母さんも死ぬことでプロットを進めようとするのは安易だと思ったのでそこがマイナス。(でも原作がある映画だから原作に沿っているだけかも?未読なので読んでみたい)
・邦画にありがちな「長い台詞回しで物語の核を全部わかりやすく説明するシーン」や「やたらと怒鳴るシーン」がなくて、どちらかというと淡々と進んでいったのはよかった。終演後Twitterを見て気づいたがドキュメンタリータッチの映像になっておりそこもリアリティを高める一要素になっていた。
・鈴木亮平目当てのゲイがたくさんいたと思われるがノーマークだった宮沢氷魚さん、笑顔が可愛すぎる…そして宮沢氷魚が「タチ」側なのがわかりすぎていた。
・公開時のインタビューで主演2人、とくに鈴木亮平さんのLGBTや同性婚に対する誠実な姿勢が話題になっていたし、それゆえにただ同性愛をBL的に消費する映画ではなさそうと安心できた。ハリウッドではマイノリティの役を当事者ではない俳優が演じることへの批判が高まっており、そういった視点まで持っている鈴木さんは本当に素晴らしいと思うし、そういう俳優がもっと増えてほしい。劇中の父や妙子とのやりとりや、婚姻届のくだりは同性婚が認められておらずLGBTが可視化されにくい今の日本においてはすごくリアルだけど、早くこれを昔はそうだったんだ〜という世の中にしていきたい。
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