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エゴイストのSPNminacoのレビュー・感想・評価

エゴイスト(2023年製作の映画)
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一見ピュアな年下男子の龍太より、むしろ浩輔がピュアではないか。ブランド服で武装しメイクで顔を作るたび、その無邪気なほどの感情を抑え込もうとして抑えきれない。田舎から都会へ脱出し、自分を作り上げてきた必死の努力を見せまいとしつつ、不利な状況で一生懸命な相手を見過ごせない。敢えてパトロンとして龍太をサポートしながら、助けられているのは浩輔だ。
高層階と路上で手を振り合う構図は、やがて同じ高さになる。高価な服やマンションは浩輔が自分に与えた贅沢だが、それを分かち合う相手に向けられていく。2人はお互いケアし合い、お金と身体と愛と時間の共有は、更に母親の共有にまで広がる。亡き母を思い続ける浩輔とその思い出を共有しようとする龍太。喪失を共有していく龍太の母と浩輔(その関係はシスターフッドに似て見える)。そして愚痴から極上スイーツまでシェアするクィア・コミュニティ。そこには愛がある。龍太とその客には対価しかない。
ただ世間では共有に理由が求められるならば、与えるのは我がままだと謝らずにいられない。自分が受け取ることにも躊躇する。でも龍太の最後の言葉は「ありがとう」だった。実は与えること以上に、受け取って受け入れることが愛で、その方が難しかったりする。だからラストで浩輔は我がままを受け入れる。
台詞が聞き取りやすくて明瞭、大人のゲイライフに後ろ暗さはなく日常と生活が当事者目線で活き活きと明瞭。2人きりでも仲間といても、ジムでも自宅でも夜の街やホテルでも明るくて、浩輔と龍太が愛し合うのも昼間(但し、外で手を繋ぐことはできない…)。カメラは張り付くように鈴木亮平の一挙手一投足を追いかけ、その柔らかな物腰と甘い視線が物語るニュアンスもまた明瞭だ。ちゃんとキャンプでクィア(見事なヴォーギング!)、複雑さ曖昧さにも一貫性があって隙がない演技。手ブレはあんまりいただけないけど、崩れ落ちる長身がフレームからはみ出す(捉え損ねる)カットは良かった。
あのマンション、室内がバブルっぽいのに都心の一等地じゃなく下町っぽい所にあるんだよね。地獄があれば天国もたぶんあるし、そこは誰でも行けるかもしれない。ピュアな魂をエゴだと自嘲しなくてもいい。聖域もいつか広く共有されることで聖域でなくなるのかもしれない。
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