明石です

オカルトの森へようこそ THE MOVIEの明石ですのレビュー・感想・評価

4.3
*レビューは後ほど清書予定。

心霊ドキュメンタリー界の一発屋「黒石監督」が13年前に撮った映画「オカルトの森」の熱烈なファンから届いた不可解なビデオ。彼女を訪ね田舎の森を訪れると、そこでさらに不可解な出来事に見舞われる。カルト、オカルト、に続き、時空をいくつか超えて続く白石監モキュメンタリー第3弾(よね?多分)。

霊界ミミズに魅せられ、「宇宙の真実を知ってしまった」女の子が物凄く私のタイプでたまげた。プロ野球の始球式をして、篠山紀信のカメラにも収まったことのある子に、こんな切れてしまった役を充てがうとは、初っ端から、白石監督の趣味の悪さ(良さ)が光りますね。

やっぱりキャラ立ち霊能者は要らんなあという気がする。初期作品『カルト』に出てきたNEO様は、多分白石ホラーの中でもいまだ人気のキャラだと思うのだけど、あの、過度にアンニュイな金髪イケメンが超スゲー霊能力者という出オチ感のある設定に当時は目新しさがあった。今作でまた同じようなのが出てきても、もはや「型破り」という型にはまってしまっていて、ああ同じことをやりたいんだなという作り手の意図がどうしても透けてしまう。もちろん、あの時のNEO様が再登場するはら話は別だけど、NEO様みたいな人がまた出てくるのは違うな、、と。もちろん、この最強イケメン霊能者が出てきて万事解決!とはならないところに、この監督の良さが出てるとは思う。途中一回死ぬし笑。

『カルト』のNEO様が白石映画ファンの間で伝説的になってるのは、多分あのテキトーな感じにあるのではと思ってる。「名前?んなもん何でもいいよ。じゃNEOで」「NEOって何ですか?」「君、マトリックス観てないの?」というあの感じ笑。でもその肝心のテキトーさは、二度は繰り返せない。何しろこの手のキャラは、映画の外で普通に生活をしている姿が全く想像できない。映画の中にしか存在しえない人間には誰も共感できない。だから2回目以降はない。「主人公が幽霊」だと分かった後に、主人公の話がさらに続く『シックスセンス』を誰が観たいだろうか。その「オチ」の衝撃は、その一回きりにとっておいてほしい。作品のためにも、それから作り手自身のためにも。

それにしても、大ヒットオカルト映画を手がけた黒石監督と、謎の啓示を受けておかしくなってしまった白ワンピースの電波少女と、猟銃で退治をする元ニートと、北野映画によく出てるヤクザ顔の霊能者と、これだけ濃いメンツを全般に揃えてなお、もはや型にハマった金髪イケメン霊能者が出てくる必要があるのかというのはそもそも疑問ですね。「昔ヒットさせた曲をまた歌うくらいなら、僕はトラックドライバーになるね」というリック·ネルソンの古い歌の歌詞をなんか思い出した。

反対に、宇野祥平演じる猟師役の江野祥平はたまらん。白石作品の常連さんですね。本作に作中作として出てくる映画『オカルト』で、謎の啓示を受け渋谷ハチ公前で爆撃テロを起こしたニートが、強キャラとして帰ってくる。ニートの演技も凄まじく上手かった(この人ほど本物のニートにしか見えない俳優を私は知らない笑)けど、力を手にしたツワモノの方でもさらに光ってる。絵に描いた以上の最強ニートの頃を知ってるから、応援したくなっちゃうのかな笑。演技はべらぼうに上手いし。「どや?俺のデニーロばりの芝居に騙されたやろ」という台詞が劇中にあるけど、演技というものの本質が演技であることを忘れさせることにあるとしたら、この人の演技は冗談抜きでデニーロ級だと思う。

『呪いのビデオ』のディレクターから映画監督に身を起こした白石監督の持ち味は、ほん呪由来のいかにも「本物っぽい」、逆にいえば「作り物だと観客にバレてはいけない」ルールを、初期の頃は自作に課してだことだと思う。その流れを汲んだ『カルト』や『オカルト』、『コワすぎ!』シリーズが私は大好きでした。そのリアリズムの檻から例外的に這い出た(と私は思ってる)『カルト』のNEO様が、例外的な人気を得てしまったがために、味をしめてしまった感がある。もちろん、サム·ライミのように、ホラー映画から入って『スパイダーマン』のような大作映画を撮るようになるなら話は別だけど、私の見る限り、白石監督は、そういう、他人が構想した「大作映画」との相性はあまり良くない。というかすこぶる悪い(これは貶しているわけでなく、自分作った作品と他人のそれとに平等に愛を注げないのは、芸術家たる人間の万国共通の性だと思う)。モキュメンタリーと白石ホラーの両方を愛する者として、この監督には、やはり、リアリズムの一線を、全ての作品がそうあるべきとは思わないまでも、何作に一回かは、死守してほしいなと強く思う次第です。

色々書いたけど、この映画はかなり面白い笑。ただこれが白石ホラーの終着点だとしたら、少し淋しいなと思う。総じて私はモキュメンタリーというジャンルが好きで、それをほぼ一人で開拓し押し進めた白石監督には多大なる経緯を抱いている。1ファンの意見として、わかりやすいキャラクター性に走ってリアリティに背を向けたり、あるいは、既存のファンの方を向いて過去作に「里帰り」する作品ばかりでない、過去作の伝説すらもぶち壊すような新作を撮って欲しいなと切に願っている。終わり方の後味が素晴らしく良かったので、気持ち高めに評価する。
明石です

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