Jun潤

あの娘は知らないのJun潤のレビュー・感想・評価

あの娘は知らない(2022年製作の映画)
3.6
2022.10.01

岡山天音出演作品。
大切な人の死を起点としたボーイミーツガール的しんみり系恋愛ドラマ感。
岡山天音の『沈黙のパレード』での演技がまだ記憶に新しいので、期待値は高め。

サンダーソニアの花言葉は「望郷」。

伊豆にある小さな旅館「中島荘」を亡くなった祖母と母の代わりに一人で切り盛りする女性・奈々。
そんな彼女の元を、この町で恋人が死んだという俊太郎が尋ねてくる。
恋人・ゆい子の足跡を求め、町を巡る2人。
それぞれに秘められた過去と秘密が交錯し、2人の心境が徐々に変化していく。

これまた新しい、いえ、また一つ完成されたエモーショナル・ラブ・ストーリー。
印象に残ったのは“音”で、サントラを使用せず、町にあふれる自然な音と、演者の息遣いのみが静かに鳴り響く。
だからこそ、訪れる無音の瞬間の心地よさ、福地桃子の儚げな声、岡山天音の軽く聞こえる声で語られる重要なメッセージが心に届く。

2人が巡る伊豆の美しい景色を背景に、悲しい喪失、苦しい再会、切ない出会いを通して、時に小さく、時に大きく変化しまだまだ続いていく今後の人生へと向かう、モラトリアムを描いた作品。

タイトルの『あの娘』については作中で明言はされませんでしたが、観た人によって解釈が広がりますし、個人的には、奈々が知る俊太郎の優しさをゆい子は『知らない』し、逆にゆい子が知る俊太郎のことを奈々は『知らない』、ということなのかなと感じました。

人生が変わるきっかけは人それぞれで大きさもタイミングも千差万別。
その中の大きな一つが人との別れ、再会、出会い。
自分が『知らない』世界を知ることは、今の生活が変わる可能性を秘めていて、とても怖いことなのかもしれない。
場所が変わらなくても、世界の見方を変えることは、人の間で生きる人間だからできること。
Jun潤

Jun潤