くりふ

ウーマン・キング 無敵の女戦士たちのくりふのレビュー・感想・評価

4.0
【アイ・アム・ユア・マザー】

アマプラ見放題にて。気になっていたが、後回しになっちゃった。

甘いが、それは控えめで、よかった。肩肘張らずに堪能できる、史実を元とした女たちのバトルムービー。これ、劇場未公開では勿体ないよ。

女優のマリア・ベロさんが、17世紀アフリカの女性部隊“アゴジェ”を知ったのが企画の発端らしいが、よき着眼点だよね。こんな歴史掘り起こし映画は大歓迎!アメコミ底抜け大作の、何億倍の価値があることか。

手堅く纏めたエンタメ体裁で、良くも悪くも複雑な史実を単純化。一方でケアもしてあり、例えば舞台となるダホメ国の王、その立ち位置ブレ具合が、本世界の足元を微妙に照らしている。ダホメも奴隷貿易で潤っていた…外圧から、そうする他なかったのでしょうが。

尺に2h超えが必要だったか、また清潔過ぎる映像には疑問。蝿一匹いないってどーよ?一番気になるのは英語劇。ハリウッド映画ゆえ広く流通できたワケだから、痛し痒しだけど。

アクションは素朴だが頑張ってる。女優さんは体張ってる!17世紀ならコレでえんちゃう?それにアクションの旨味より、人物の掘り下げに惹かれる。現代劇みたいな演出だがお陰でハードルが下がり、要である女たちの葛藤がわかり易く響く。

王宮内で生活するアゴジェの暮らしは、特権的だが自由ではない。結局は女性搾取的な枠組みで、檻のように囲まれている。そもそもウーマン・キングっていう呼称に“女だてらに”との響きあり。本来の名称“ポジト”はどういう意味なんだろう?

が、様々な枷を承知の上で、女たちは生活を謳歌する。この日常盛込みが本作の豊かさ。禁婚だし運動部的なノリか?ユリもあっただろうが触れない。描くべき優先度からは納得。

無駄ない掘り込みで、各人物のキャラが立っている。見た目も、白人優先のルッキズムから外れた魅力。黒人女性監督の力でしょう。もはや当たり前のことでしょうが。

若きヒロイン、ナウィを演じるトゥソ・ムベドゥは、だんだん良くなる嵌り役。やっぱり、妙に清潔感あるんだけどw、それは人物の実直さも反映している。逆境が重なる中で、健気さが際立ってくる。当時の人物としてリアルかはわからないが、ヒロインとして正しい。

ヴィオラ・デイヴィスには逆に、特別な輝きを感じなかったが、彼女は映画の錨だからそれでいいと思う。ナウィとの関係も、決して精算されてはいない…という空気感がよかった。

と、狙った訳では無いだろうが、独り戦士として生きた女より、他者と特別な繋がりを持とうとした女の方が生き残っている…ように見え、含みを感じて面白い。ナウィに“ロミジュリ”も背負わせたのは、王国の外も見せたかったのかなーと。私は前向きに思えました。

全体、フェミニズムだど!と青筋立てないのがいい。女たちの戦争を平熱で描いている。

そもそも女軍を創設したのは、それを売りにしたワケじゃなく、奴隷で売られたのと戦争とで男不足となった…との現実的ニーズから、らしい。まあ、男が奴隷商売も戦争も始めなければ、アゴジェが創られることもなかったのでしょうが。

何にせよ本作を好例として、歴史に埋もれた女達の映画が更に、続いてほしいと思います。

<2024.1.18記>
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