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わたしの見ている世界が全てのdxdxdのレビュー・感想・評価

4.3
「凄え面白いインディペンデント映画を見つけた」と興奮してしまった!
「スタートアップこそ正義!成り上がってナンボ」のゴリゴリ優生思想の女性とその兄妹たちを描いた家族映画。決して生温いところに着地させないエッジの効いた作品だった。

主人公・遥風のキャラクターがザ・優生思想で、近年の一部の界隈の人たちと重なる。「上に登るために弱者を切り捨てていくから」とナチュラルな会話の雰囲気で出てくるから末恐ろしかった。何の迷いもなく「この仕事向いてないんじゃないですか」と言い放ち、嫌な間で人格否定する森田想のパワハラ演技がとにかく生々しい。そんな人間がオンラインのメンタルケアサービスを立ち上げようとしているのが皮肉そのものだった。

そして、劇中・遥風が売却すべく奔走するこの家兼店舗こそが第二の主人公と言っても過言ではないと思う。とにかく空間が秀逸スーパーとレストラン、さらには長男の部屋まで内包されていて、極めて不思議な間取りになっている。

どうやらリビング的な場所が存在しておらず、ずっと店の机でご飯を食べている。家族で食卓を囲むというよりは各々机に座って決して視線が交わらない位置関係で食べている。唯一同じテーブルですき焼き鍋を食べるかと思いきや、ある事件でそれもならず。監督がロケ地となった国分寺のフードセンターを見つけたのがこの映画を作るきっかけだったと言ってたけどそれも納得。

家族で食べるご飯も絶妙に不味そう。4人まとめてゆでたせいでデカイ塊になってしまった素麺。主人公・遥風はクーリッシュを食べ律儀に置いていく。しかし、家族以外の恋人と飲むお酒、食べるご飯は美味しそうに描く。ここからもこの家族は一緒にいるべきではない事を暗示しているようだった。このように食卓描写で家族の機能不全を描くのは「家族ゲーム」とも重なり、やっぱり傑作だなと思った。

目的のために家族さえも「犠牲」にしようとした遥風だけど、決して優生思想批判でも家族礼賛でも終わらない。家族でもビジネスパートナーでもある日突然人は去る、諸行無常の人生。たどり着いた結末は厄災でもあり希望でもあり、何とも言い難い。ただ冒頭の「何をしたかったのかもう思い出せなくなっていた」がラストに虚しく響く。
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