りっく

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4.1
自らが成長・挑戦できる環境下で成果を出して周囲に認められれば幸せ。そんな確固たる価値観を持っているがゆえに、相手の気持ちに寄り添うことなく、不必要な人間を見下し切り捨てようとする女性が、根本的な性格は急には変えられないという前提で、それでも廃業した実家の飲食店を訪ねてきた見ず知らずの、だがおそらく常連客だったであろう相手に声をかけ何か言葉をかけようと模索する気持ちに至ったところで、ひとりの人間のドラマを締めくくる着地が素晴らしい。

両親が死に、家業は右肩下がりの中で、人の気持ちを鑑みることなく、逆撫でることを恐れず、人格など気にもせずに正論を振りかざす身勝手さが物語の推進力として機能し、他の兄弟もしっかりとひとりひとりのキャラクターを描写することで、各々が葛藤の末に落ち着く場所と、逆に自分の思い通りにならず苛立ち、戸惑い、自分を見つめ直す主人公との対比が効いている。

思考を停止させ退屈な日常に安住することの楽さと、そこから一歩踏み出すことの面倒くささ、それらをまるごとひっくるめて人生の徒労感を、リアリティをもって描いてみせた秀作。
りっく

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