真一

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けの真一のレビュー・感想・評価

4.0
 権力者が、弱い立場にある被害者の性をいかに弄び、口を封じ、社会的に抹殺するかを克明に暴いたアメリカのドキュメンタリー風映画。事件はレイプで終わらない。被害者は、上司である加害者に札束で頬を叩かれた後、恋人にも家族にも打ち明けてはいけないという「秘密保持契約」を結ばされた上で、会社を放り出される。非道、下劣の極みだが、すべて実話だ。

 性犯罪を繰り広げたのは、世界的な映画プロデューサーだったハーヴィー・ワインスタイン(現在服役中)。被害者はグウィネス・パルトロー、アンジェリーナ・ジョリー、ローズ・マッゴーワン、アシュレイ・ジャッドら有名女優の他、ワインスタインが所有していた映画会社「ミラマックス」の女性社員ら。

 本作品は、ニューヨーク・タイムズの女性記者二人が、「秘密保持契約」により猿ぐつわを噛まされた複数の被害者たちと接触し、激しい葛藤や衝突の末に、真実を聞き出すストーリーだ。

 当初は「知りません!」と言って取材拒否したものの、徐々に重い口を開く女性たち。

「話すのが怖かった」
「誰も助けてもらえないと思った」
「何度も死のうと考えた」

 被害者たちが震えながら、泣きながら、絞り出すように語る「あの日の悪夢」。その重すぎる言葉は、観る人の心の奥深くまで突き刺さることだろう。

 ワインスタインによるレイプ、性虐待、セクハラ量産システムの「鉄壁さ」には、戦慄するほかない。手順は以下の通りだ。

①ホテルの部屋に獲物を呼ぶ
②自分へのマッサージを要求
③「少しでいいよ」などと指示
④従った獲物を組み伏せる
⑤性犯罪に及ぶ
⑥札束を見せ、示談に持ち込む
⑦交渉は「人権派」の女性弁護士が担当
⑧女性弁護士が被害者を丸め込む
⑨「秘密保持契約」に署名させる
⑩被害者の悪評を流し、社会的に抹殺
⑪新たな獲物を物色。①に戻る

 なにしろ相手がハリウッドの頂点に君臨する超大物だから、告訴しても警察は動かず、マスコミに情報提供しても報道しない。有名女優も自社の社員も、ワインスタインの目に止まったら「運の尽き」と思わざるを得ない日々が何十年も続いていたという。透けるのは「配下の女には何をしてもいい」という、凄まじい差別意識とセクシズムだ。

 これをきっかけに #me too 運動が全世界に広がったのは記憶に新しいが、ワインスタイン事件はしょせん、氷山の一角に過ぎない。日本でもTBS記者がレイプで訴えられ、財務省の事務次官がセクハラで辞任した。ジャニーズの亡きドンを巡る性犯罪疑惑も底無しの様相を呈している。

 事件の背後にあるのは、周囲の見てみぬふりだ。ワインスタインの事件でも、財務事務次官のセクハラでも、周囲のほとんどは、被害者を守ろうとしなかった。ジャニーズの件も、そうだ。「触らぬ神に祟りなし」を決め込んでいたのだ。だから、被害者は自ら声を上げざるを得ない事態に追い込まれた。そうした憤りを示すためだろうか、本作品にはなんと、被害者のアシュレイ・ジャッド本人が登場し、思いを訴えている。

 私たち自身が変わらなければ、この度しがたい惨状を脱することはできないー。この映画を観て、強く思った。
真一

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