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SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのSPNminacoのレビュー・感想・評価

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ドキュメンタリーでなく映画化されたのを観ると、そもそも映画業界、新聞業界のメタ内幕ものになる訳で、何となく複雑な気持ちになってしまう。加害者はもちろん被害者も実名で登場するのだが、The NY Times記者ミーガンとジョディ演じるキャリー・マリガンとゾーイ・カザンはじめ、キャストは同じ女優として他人事じゃなかろうにと生々しく思える(だからこそ意義を感じてるのだろうけど)。本人として出演のアシュレイ・ジャッドは勇気あるよね…ファンとして本当に悔しいし、当人の思いはどれほどかと。
映画としては記者のセンシティヴな調査取材、土壇場まで記事の構成&修正したりとかの仕事ぶりが興味深い。家族とのプライベートも描かれるけど、夫と言い争う場面(仕事と家庭の両立の難しさとしてありがちなクリシェ…)がなくて本当にホッとした。マリガンとゾーイの凸凹コンビはもちろん役者陣が充実してて、告発における重要な人物でサマンサ・モートン、ジェニファー・イーリー、ザック・グルニエがさすがのインパクトある演技。パトリシア・クラークソンもいい。
何よりも、タイトル通り「声をあげた女性たち」を主体とし、声をあげるまでの過程を追った映画であることが大事(なのに「その名を暴け」なんてサブ邦題は変だと思う)。記者側も怒りや動揺を隠さないが、そこをエモーショナルなドラマに仕立てはしない。あくまで触媒であって、ヒーローでも主人公でもない。直接の場面は極力描かず、被害者の話で構成してあるのも尊重してるからだし、「ありがとう」はその証だ。ワインスタインを登場させながら、それを受けるキャリ・ーマリガンの顔で物語るのは的確で見事だった。マリガンの低い声は容赦ない凄みだよ…。
ともあれ、今にしてもしんどい、怒りと絶望と不安を掻き立てられる事件である。沈黙を強いることは権力と恐怖を更に強化する。ワインスタインは裁かれても、裁かれない人が今だにいることに気が滅入る。
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