マグルの血

MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらないのマグルの血のレビュー・感想・評価

4.5
激務に追われる小さな広告代理店の従業員が、同じ1週間を繰り返すタイムループに巻き込まれていることに気付き、その原因が上司にあると考え、なんとかしてループから抜け出すために一致団結して奮闘する話。


邦画は定期的にこういう低予算っぽい短めの良作が出てくるから侮れない。一個前に観たのが「聖地○」だったから余計に…おっと誰か来たようです。


…戻りました。

「カメ止め」「アルプススタンド」「ドロステ」この辺の単語にピンときた方は間違いなく観た方がいいと思います。日常×SFの相性の良さよ。ラーメンズとか藤子·F·不二雄短編集好きな人もぜひ。あんまりよく知らないけど星新一のショートショートとかも引っ掛かるかな。あ、あと上田誠とか!


やり尽くされたと思われる「タイムループもの」もまだまだ楽しませてくれる可能性を秘めたジャンルですね。
本作はクライアントの締め切りに追われる広告代理店が舞台。毎日会社で寝泊まりするほどの激務で同じ日を繰り返していることに気づかない。気づいた社員がループの中でなんとかして他の社員に気づかせようと必死に画策することが新しいかなと。モブが一人ずつ作品の1部だったことに気づいていくような、少しずつアップデートされていく「設定」の掛け合わせやブラッシュアップがいい方に作用して、テンポの良さも相まって高揚感が得られました。ワクワクする。

タイムループは原因を突き止め解決するって形で展開していくのがセオリーだと思いますが、起承転結がきっちりできていて、物語が意外な方向に進んでいっても全然嫌な感じしないです。

正直現実でタイムループなんて起きることないからどうやって終わると物語として美しいかなんて正解わからないじゃないですか。
「オール·ユー·ニード·イズ·キル」なんかは比較的筋が通ってるよう思うけど、大抵冷静に考えるとヘンテコに感じてしまう。しかし、ストーリーに工夫があってしっかり練られていることで謎の説得力があったりするので作り手の熱量が凄く試されるジャンルな気がします。


本作も結局ループの脱出方法は意味不明だったけど謎の説得力がありましたね。全然アリでした。



話変わるけど、本作で「労働」について考えてしまったなあ。昨今わりと「自分の時間」を大切にしたいって傾向強くて、会社の付き合いは全部断るとか、余計な残業はしない、始業は定時ギリでちょっとでも思い通りにならないとブラック企業認定(正直極論だけど、切り取り方によってそう見えるだけで、実際本人の勤怠は誉められたもんじゃない場合も多い気がする)。

帰宅できず何日も会社で寝泊まりするとか、現実にだいぶ減少傾向にあるとは思いますし、劣悪な労働環境の殲滅はどう考えても現代社会において必須課題ではあると思うので、それらを称賛することは出来ないという前提で言わせてもらうけど

最近ノリ悪い人増えましたよね。

受け手の捉え方だと思うんですけど、「チームで成し遂げる喜び」みたいなものが受け入れられにくくなってるように感じます。ちょっと仕事頑張ろうとすると「意識高い」みたいなレッテル貼られて。真面目に仕事してる人が皆のケツ拭いてメンタル殺られて死ぬみたいな。なんか悲しい構図。

皆で同じ方向で、時には無理して頑張って達成することはそんなに悪いことではないと思うんだけどなあ。非効率とか言われてしまえばそれだけなんだけど、「放課後真っ暗になるまで学校残って文化祭の準備するワクワク感」みたいなのちょっと憧れますけどね。本作なんかそういう気持ちを思い出させてくれるというか。カタルシスを自ら演出していくのって結構ロマンチックだと思うのは間違ってるんでしょうか。すっごく難しいと思うけど、この作品で頑張る彼らを観ていたら、なんとなそんな気持ちになりました。気を悪くする方いたらごめんなさい。決してブラック企業を肯定してるわけじゃありません。

ダラダラと書いてしまいましたが、本作は私の中で良作でした。久々に人に教えたくなる映画でした。これは流行りそう。PARCO配給いいすね。

しかしこんなに秀逸なシナリオを観ると、なんか現実でタイムループ経験してる人何人もいるんじゃないかなって錯覚しますね。
マグルの血

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