ツァラーの歌も、これまでの映画では物憂げな曲ばかりだったのが、本作では前向きな曲を歌い笑顔も見せている。披露する5曲の中でも特に明るい曲調で大ヒットしたのが「Davon geht die Welt nicht unter(それで世界は終わらない)」。 http://www.youtube.com/watch?v=LxvouLIlWv8 いかにもドイツ風の巻き舌をふんだんに使って歌い上げるラブソングで、その歌唱シーンは本作屈指の名場面と言える。兵隊の慰問コンサートで♪悲しい恋。でもそれで世界は終わらない。灰色に見えることもあるけれど、いつかまたもっとカラフルに、青空に変わるでしょう♪と歌うツァラー。最初は固い表情だった兵隊たちも、聴くうちに表情に明るさが差してくる。途中でツァラーが自身の悲しい恋愛を思い出し歌に詰まるのだが、会場がリフレイン合唱で支え最後に大合唱で終わるのである。この演出とカット割、驚くべきことに後の「サウンド・オブ・ミュージック」(1964)のクライマックス、“エーデルワイス”合唱シーンと酷似している。オーストリア国民が“非ナチス”を歌で表明する名シーンの元ネタが、ナチスドイツ最高のヒット映画である本作にあることは意外すぎであり、今後そこに含まれた意味を考察していきたいと思う。