akrutm

マグネティック・ビートのakrutmのレビュー・感想・評価

マグネティック・ビート(2021年製作の映画)
4.2
ミッテラン大統領が誕生した1981年のブルターニュ地方を舞台に、ラジオ放送や音楽に情熱を燃やす青年の青春のひとときを、兄の恋人への思慕や徴兵先の西ベルリンでの友情などとともに描いた、ヴァンサン・マエル・カルドナ監督の長編デビュー作となる青春映画。

レトロで、ロマンティックで、情緒豊かで、素晴らしいと心の底から言える青春映画である。特に、ラジオ放送というアイテムが私の琴線に触れてしまった。ネットがなかったこの頃にラジオ放送(特に短波放送)を好きで聞いていた人ならばわかってくれると思うけど、ラジオは物理的距離が受信状態に比例するし、その土地の音楽が反映されるので、すごく旅情を感じさせてくれるロマンティックな媒体である。

この映画では短波放送を扱っているわけではないけど、西ベルリンに赴任している主人公の青年フィリップが、BFBSという英国軍向けの長波放送を用いて、遠く離れたマリアンヌに想いを伝えようとするというエピソードなど、ラジオ放送がロマンティックな小道具として効果的に使われている。その他にも、西ベルリンに旅立つフィリップにマリアンヌが渡した音楽カセットや、フィリップがマリアンヌに頼んでジングル音声を録音するときのやり取りなど、音楽を通じてフィリップとマリアンヌの淡い恋心が表現されているところにも、個人的にはグッときた。

フィリップ役のティモテ・ロバールのフレッシュな演技や、マリアンヌを演じたマリー・コロンの控えめな笑顔も、とても良かった。ティモテ・ロバールは本格的に俳優として活躍する前にブーム・オペレーターの仕事をしていて、マリー・コロンが主演した『レティシア』というTVドラマも担当していたそうである。また、フィリップの兄ジェロームを演じたジョゼフ・オリヴェンヌは、クリスティン・スコット・トーマスの息子である。

フランス映画では時代の雰囲気を表現するための道具として大統領選挙がよく使われる(フランス革命以来のフランス国民の矜持が反映されている)のが、日本映画では皆無なだけに、羨ましい。
akrutm

akrutm