真一

裸のムラの真一のレビュー・感想・評価

裸のムラ(2022年製作の映画)
4.4
 保守王国・石川県の権力者が繰り広げる恥ずかし~い「裸の王様」ぶりを観て嘲笑しているうちに、連中をバカにする自分も彼らと同類だという事実に気づかされる、恐るべきドキュメンタリー映画だ。
 本作は、パターナリズム(家父長主義)の権化のような当時の石川県知事・谷本正憲の振るまいと、その石川県で因習や伝統に抗いながら生きるバンライファーやイスラム教徒たちを交互に紹介する。当然ながら、バンライファーらに思いきり感情移入しながら観た。「どうして谷本のような威張り腐った親父を石川県民は支持するのか。アホか」と悪態をつきながら。
 ところが、思わぬ場面を観て唸ってしまった。バンライファーの男性が監督のインタビューに応じている際、傍らにいる奥さんや幼い娘さんに対し、パターナリズムに満ちた口調で指図するシーンが何ヵ所も映りこんでいるのだ。
 自身のリベラルで自由な価値観を熱く語る傍ら、日記を書かなければいけない理由が分からないと不満を漏らす娘さんに対し「父さんが日記を書けと言っているんだから、書きなさい」と怒る男性。本作は、自由を愛するバンライファーの父親と言えども、組織(家族)に属する「目下の人間」から気に入らないことを言われると機嫌を損ね、無意識のうちにパターナリズムを露呈させてしまう、と暗に訴えているのだ。
 映画は、地域住民からの偏見や差別に負けずに暮らすイスラム教徒の男性も、パターナリズムと無縁ではないという視点を提供する。男性と結婚したインドネシア出身の女性が、監督のインタビューに対し、夫の男尊女卑的な価値観を赤裸々に語ったのだ。
 さらに監督は、自分のイスラム宗教に対する差別意識まで表面化させ、カメラに収めるという荒業に出る。ヒジャブを被って黙ってスマホをいじる次女に対し、取材を嫌がっているにもかかわらず、カメラを向けて心境を根掘り葉掘り聞いたのだ。悔しくて泣き出す次女。果たしてこれは自己批判なのか。それとも自己批判を装った炎上狙いのシーンなのか。衝撃的な映像に、胸が詰まった。そして思った。「中年男の自分だってさまざまな偏見や差別を背負っているはず。他人のことを偉そうに批判する資格はあるのか」と。
 パターナリズム、男尊女卑、官尊民卑、排他主義、民族差別にまみれながらも、それに気づくこともなく「人権意識が高い先進国に生まれて良かった」と満足感に浸る日本人ー。作品から見えてくるのは、こうした私たちの姿だ。
 監督は、富山県で地元テレビ局記者などを務めた五百旗頭幸男。ジャーナリスト魂を感じさせてくれる作品だった。東京・東中野駅前の映画館で観た。記憶に残る一本だった。
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