金魚鉢

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしいの金魚鉢のレビュー・感想・評価

3.4
悩みを抱える繊細な若者たちが、ぬいぐるみに話しかけることを通して、現代社会や自分と向き合う。心優しく穏やかな性格のぬいサー部員たちの視点で、相手に迷惑をかけたくないという気遣いが、やがて否定のない世界への現実逃避に繋がっているという心の拠り所の危険な側面が描かれている。

人とは違う自分を認めない社会と安心する関係に依存する自分を切り分けて考えることが重要。その上で自分に合ったストレスと向き合う術を持っていることはとても大切。でもその環境に甘んじて、それ以外の世界を拒絶するような生き方をすることはかなりリスクがある。ぬいぐるみに対しては一方通行で、一時的な解決にしかなっていないことを自覚していないと「打たれ弱いことは悪いことじゃない、打つ方が悪い」みたいな過激な考え方に発展して、無意識のうちにこの世の中では通用しない大人になってしまう怖さがある気がした。

"ぬいぐるみに対して話しかける"という行為によって、登場人物たちの嘘偽りのない本音や心情がより鮮明に伝わってきた。あと白城がぬいぐるみに喋らない理由を語って終わるラストが良かった。"優しすぎる"は現代では強みにならないのかも
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