あぶ

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしいのあぶのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

七森の言う「嫌なことはもっと嫌な奴が言ってくれ」が、この映画の台詞の中で一番突き刺さった。「地元」のホモソーシャルの中で生きる同級生に向けて放った言葉であり、男性性の持つ暴力的な価値観の押し付けをしてきた旧友ではあったが、映画館に一緒に行った時の話は楽しそうにしており、加害者の一面だけではなく高校生活の中では七森にとって大切な友人だったのだと思う。その友人ですら自分達が正しいと思い込んだ価値観の押し付けをしてくる程に、世界はやっぱり優しくない、優しい七森には辛すぎる現実が広がっている。
ただこの台詞は地元の友人だけではなく、白城にも当てはまる事が辛い、信じ合える価値観を共有出来ると思っていた白城でさえも、Twitterをみながら価値観の相違を目の当たりにさせられるシーンには胸が痛くなった。
だからといって白城が暴力性を持ったマジョリティ側の人間なのかと言えば決してそうではなく、白城は白城なりの正義を持って「やさしい」に対して向き合っていて、作中一番好きな登場人物になった。
ラストの白城の独白も
「ぬいぐるみとしゃべることと、ひととはなすこと、このどちらかが正しくて、どちらかが正しくない」「やさしいことは素晴らしいこと、でもやさしいことから解放してあげたい」と映画の中で二元論で定義することなく、多くの提案をしてくれたこの映画はきっと、これから沢山の人を救ってくれると思う。本当にこの映画を作ってくれてありがとうという気持ち。
あぶ

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