Tyga

美と殺戮のすべてのTygaのレビュー・感想・評価

美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)
3.8
ナン・ゴールディンの伝記映画。もっとも主な語り手は彼女自身である。繰り返される美術館内でのオピオイドやサックラー家への抗議活動がとてもメッセージ性がありながら美しく、かっこいい。

芸術はあくまで「芸術的」であるべきなのか、アートと社会との距離感について考える。これは私たちの日本社会とも地続きどころか、日本はさらに前時代的なのかもしれないと思った。エイズ展の顛末はまんま「表現の不自由展」と重なる。
芸術家も生きていて子どもも生まれれば、あるいは恋人も作る。社会の中を生きているのに、その社会についての意見を作品で表現することができないこと、現在の政治を批判するならお金を払わないという姿勢は「検閲そのもの」でしかないと思う。

過激で退廃的とも言える美を追及した結果に待ち受ける死は、依存性の高い薬から抜け出せずに辿り着く死は果たして自己責任といってよいのか。そういう意味ではあの着地点で終われてよかった。ちゃんと、サックラー家が罰せられるアメリカはすごい。

行ったことある美術館も結構出てきたけれど、サックラー家の支援だとか名前があるなとかあまり注目してなかった。ただ、サックラー家の名前が削除されて匿名からの寄贈という形でめでたしで良いのかというのは疑問が残る。
どちらかというと、「こういう経緯でサックラーの名前を冠すのを辞めました」と説明がある方が健全な気がする。ただ、それは説明過多で美しくないのかもしれないが。
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