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エターナル・ドーターのhasisiのレビュー・感想・評価

エターナル・ドーター(2022年製作の映画)
3.4
現代のイギリス。
肌寒い季節の夜更け。霧が立ち込める森に小さなホテルが建っている。
映画監督のジュリーは、母を連れて人里離れた田舎を訪れていた。
ここはかつて母の伯母が暮らしていた邸宅であり、様々な思い出がよみがえる。
ジュリーは母を題材にした映画を撮る予定で、滞在中に脚本の執筆を行っていた。

監督・脚本は、ジョアンナ・ホッグ。
2022年に公開されたゴシック・ミステリー・ドラマ映画です。
※振り返りの終盤に、物語の核心に触れています。⚠️

【主な登場人物】🌒🏡
[アリステア]母のいとこ。
[受付係]女性。
[ジュリー]主人公。
[ビル]従業員。
[ルイス]愛犬。
[ロザリンド]母。

【概要から感想へ】🛌🏼🐕
製作はA24。

ホッグ監督は、1960年生まれ。イギリス出身の女性。
1988年からテレビ業界で働いている。
長編映画の監督としてデビューしたのは2007年なので、47才の時。
今回が6作目。すべての作品で脚本も手掛けている。

ドラマの専門家で、直近2作品は、映画学校時代の経験が基。
今回が、母との思い出。どれも身近な人物との衝突を描いているので、通して見ると、彼女がどのような経験をしてきたのか分かる仕組み。

A24のアート系は縮小されるらしいので、これからは実験的な映画に触れる機会が減るのかも。

🌫️〈序盤〉🪞🧸
ずっと夜で画面が暗い。
その上、霧が立ち込めている。
暗すぎると、かえって目が疲れる。

登場人物が少ないのに、ティルダ・スウィントンが二役こなしているので、ほぼ独り言。
通常だと前髪を下ろすとか、眼鏡をかけるとかするもだが、化粧も似せてある。
役作りも違った人物に見えるように工夫するものだが、あまり感じられない。

まるで娘と年老いた娘。
母親と自分の区別がついていない。
……なんだか『君たちはどう生きるか』について話している気分がしてきた。

🌫️〈中盤〉🔦👨🏿‍🦳
母との日常会話。
会話劇だが、たわいない日常を細かく描写している。
おそらく、そんな日々こそが愛おしい、を表現しているのだろうけど、
「そこ、そんなに時間とる?」
とつっこんでしまうから、そこまでのれていない。

他人が出てこない。
純粋・無垢で外気に触れると崩壊しそうなほど繊細なつくり。
そのため、安全のために世界が閉じられている。

🌫️〈終盤〉🎁🎂
少女の心のまま、母と思い出のホテルで夜を過ごす。
母への感謝の手紙。
自己嫌悪、将来への不安などでピンとくる人であれば、
気に入るかも。

夕食。
悩みや衝突の理由は一貫しているので、刺激は乏しいが。
親子での外食であれば、誰もが経験しているので共感しやすい。
亡くなったお婆ちゃんを思い出した。

【映画を振り返って】🌥️🧳
幽霊屋敷のような見た目と裏腹に、
可愛らしい内容なので、次第にママゴトか、ドールハウスを覗いているような気分に。

親子で旅行して会話しているだけなので、よほど思い出に浸りたい人以外は手を出さない方が無難。
ただ、普遍的なテーマではあるので、刺さる人は多いかも。批評家の評価はすこぶる高い。
(一般との温度差がすごい)

設定自体は面白い。ただ、ワンアイデアなので、90分でも尺が長く感じた。
構造上、見終わった後に語りたくなるので、見ている間は、それこそジュリーの夢の中にいるようで、言葉が浮かんでこない。
よって、2周目以降は意味深だった会話が理解できるので、違った楽しみ方ができる。

👥パラノイア。
自他境界線が薄い。
現実と映画の境界線も。
生と死も。

この手の人は、映画と同化してそのものに成れる特性を持っている。
同時に「どこかで見た映画」を撮ってしまうので、枠から抜け出すのが難しい枷を填められるのだが。
抜け出せると、『バービー』のような名作が生み出される。

『マッシブ・タレント』のように逆手に取り、好きな映画の集合体に振り切る方法もある。
そんな人を外側からではなく、内側から知れるので、マニアであれば得るものがあるかも。

🚪自閉。
「友達をつくります」と言った宮崎は偉大だった。
他人に意見を求めず、1個の価値観で構築すると、一人芝居のように。

本人は気づいているかどうか分からないが、
朝ドラ『虎に翼』も、作家のクローンしか出てこないで、ずっと1人で哲学している。
他人からは丸見え。

指摘されれば、人生を振り返るだけなので、自覚はあるだろう。
これから先、孤立がさらに進み、「物語とは個人に会いに行くもの」がジャンルによっては常識化するかも。
閉じ込められるようで恐ろしくてたまらない。

監督の母が亡くなったのは2021年で、映画の製作中だが。
・10年温めた企画なので、「話題にしにくいネタ」がSNSと合っていない。
・サービス精神の乏しさ。
この2点において、わりと否定的な立場だった。
しかし、インタビューを聞いているうちに、長い監督人生の中で、このような企画も有りかな、と肯定的な印象に変わっていった。

一人二役のアイデアは、主演のスウィントンから出されたものらしい。
彼女が出演している映画はどれも面白いので喜んで選んだが。
「お前が本当に撮りたい映画はこれだろ?」
と、背中を押すファム・ファタール的な側面をもつ女優だと分かって少し怖くなった。

宮崎監督は、高畑が亡くなった後に通夜が明けない数ヶ月を過ごした、と『プロフェッショナル 仕事の流儀』では語られていた。
それがどんな景色かを想像するのには適している。

子供がいない、がホッグ監督の悩みの1つだが、代わりに映画を育てている。
バブル期は余裕があるので、さまざまな実験的な作品が世に放たれ、それはのちの技術革新へと繋がる。
A24 のアート系部門への投資がこれからの映画界にどのような影響を与えるのか?
期待と不安が入り交じったまま未来への扉が開かれる。
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