緑

光復の緑のネタバレレビュー・内容・結末

光復(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

久々にすごいもんを観た。
「岬の兄妹」並の衝撃。(絶賛)
ラスト30分くらいの、
主人公が寺に身を寄せてからの流れでは
坊さんの説教の長さに眠くなった。
しかしそれは長い助走で、
主人公に会いに来た主人公元彼が
主人公に接触する直接に
住職に頭をかち割られ、
ぼんやりしてきていた頭が一瞬で覚醒!
「スキャナーズ」を思い出したのは
仕方ない。

主人公が車に撥ねられたところで
終わっていたら最強の鬱映画だったのにと
思っていたけどなるほどなるほど。
主人公の煩悩としての元彼かと思うも、
その後お世話係が大きな穴を掘り、
更にその後みんなで
そこに手を合わせてのラストで、
本当に殺したんだなぁ……と。
来たら殺すと決めていなければ
できないような早業でのかち割りで、
住職は一体何者なんだ。(褒めてる)

影や暗さがストーリーにマッチした画/
独特の匂いがありそうな主人公宅の美術/
意思を感じるカメラワークも素晴らしい。

主人公は脳溢血で倒れた父の介護を経て、
生活保護を受けながら
鬱病を患ってそのまま認知症となった
母を介護するだけの生活。
地獄。
家庭訪問しに来た役所のおっさんの
「いいことある」
「深く考えないで」
「喜べば喜びが喜びを連れて喜びに来る」
とかなんとかいう言葉が全部超絶不快。

買い物に行って戻ったら母が徘徊で行方不明。
保護してくれた店に改めてお礼とお詫びに行くと、
中学時代に一緒の部活だったという女性に
主人公元彼がドラッグストアで
薬剤師として働いていると聞かされ、
会いに行って逃げて転んでみっともなく再会。
この女性の話し方やボディタッチしてくる
距離感がなかなかに不快。

元彼の職場に出向き再会を果たすも
テンパって逃げてこける主人公。
こけたときの怪我を手当してもらい
帰るタイミングで介護士から電話があり、
母が排泄物を投げてきて手に負えないと。
震える手で運転しようとする主人公を
事故を起こしそうと考えた元彼が止め、
代わりに運転して主人公宅へ。
自由な職場だな。

主人公の現状を目の当たりにした元彼。
後日、ポータブルトイレなどを車に積んで
主人公宅を改めて訪れる。
驚くも受け入れる主人公。
身内の介護で使った物をあげに来た
単発の親切と思いきや、
しょっちゅう家に出入りするように。
都度、介護を手伝ったり
主人公の相談に乗ったり超絶親切な元彼。
再会時に妻子がいると明かされているのだが、
家のほうはいいのか?

主人公が母を連れて出掛けた際に
妻子を連れた元彼と偶然遭遇。
主人公が目を離した隙に動いて
他人様に迷惑をかける母。
迷惑をかけられた女性が
主人公に文句を言った際の
「ドンッ! てされたのよ‼︎」という
物言いとその勢いがとてもリアルだった。

その様子をずっと見ていた主人公元彼。
主人公宅を訪れた際に
助けられなかったことを謝り、
介護を手伝い、とうとう懇ろに。
いやまぁそうなるよねという自然な流れで、
お互いを慈しむようなセックス。
別日に母に覗かれるシーンあり。
このときの母の意味あるようなないような
絶妙な表情が印象に残る。

ある日、元彼に母を任せて買い物に出て
戻ったら元彼不在。
そして母があんなに嫌がっていたベッドで
横たわっていた。
救急車を呼び、
病院で母の死亡が確認されてから
主人公は更なる地獄に突入。

母の死因はインシュリン過剰投与で、
主人公に殺害の疑いがかけられる。
身に覚えはなく疑わしきは元彼だが
言いたくない主人公は、
不躾極まる取り調べで嘘自白。
接見に来た弟の我が身の保身しか考えず
キレ倒す発言と態度が超絶ムカつく。
後日、元彼が自首して疑いは晴れるが、
今度は共犯を疑ってくる警察。
長野県の地方公務員の印象!

自由の身となるも署をマスコミが取り囲み、
外に出られない主人公。
自分なら出て行って警察の取り調べについて
全部バラすかもしれない。
ちょうど帰宅するタイミングの女性職員が
車で自宅に送ってくれるが、
当然マスコミが張っていて帰れない。
ファミレス的なところで降ろしてもらい、
閉店まで粘って退店し、
歩いて自宅に向かってもうすぐ到着という
タイミングで輩どもに拉致され、
走る車内で輪姦される。
地獄!
大手マスコミに独占取材させると言えば、
それなりの期間は
保護してもらえただろうに……。
気が済んだ輩どもに投げ捨てられ、
意識を取り戻して車道に出て、
走ってくる軽トラに
這いつくばった状態で助けを求めるも
撥ねられて大怪我。
まともな運転手で助けられたが、
いっそそのまま死んだほうが
主人公にとってよかったのではと
思えてならなかった。

2週間後、病院で意識を取り戻した主人公。
大怪我。失明。
やってきた元彼弁護士の
セクハラ発言と嘘証言依頼。
やってきた元彼元嫁弁護士の
家を売って慰謝料払えという要求。
視力を失った主人公の食事介助のババアが
いじめ気質で非常に不愉快。
同室らしき他患者たちのちょっかいも
超絶不愉快。
この病院、どうなってんだ!

元彼の裁判に出廷した主人公。
検察と判事に追い詰められてか、
元彼弁護士の要望に沿わない、
母の気持ちはわからなかった発言。
国家公務員への印象!
元彼の涙は主人公母を殺したことへの涙か、
主人公に裏切られた気持ちでの涙か、
主人公の今の姿への涙かわからない。
でも一度人を殺してみたかった系の
悪意で殺した人とは微塵も思わなかった。
きっと身内の介護のときに元彼も苦労し、
同様かそれ以上の苦労をしている主人公を
解放したくて手を下したはず。
もしかしたら主人公母の尊厳まで
考えていたのかもしれない。
なんにせよ、愛に基く犯行だったはず。

退院して外を歩くも
道路を渡れない主人公の手を引いた
ばあちゃんのみが本作唯一の
完全なる善の人。
この瞬間だけは観ているこっちも救われた。

やっと帰宅した主人公、
玄関で父母を想って泣く。
しかし投石で窓が割られ、
恐怖に震える生活に。
目が見えないってきっと想像を絶する不安。
やってきた警官に助けられ、
後日民生委員を連れてきてくれ、
民生委員の紹介で寺へ。

住職及びお世話係がいる安心できる生活へ。
お世話係は話せない男性。
住職が主人公に好きな男だと
思えと言ったのは、
お世話係にとても失礼だと思ったのだけども。

しばらく身を寄せるだけだったはずの
寺に定住した主人公。
仏教に興味を持ち、
住職にお経の意味や仏教思想を教わる。
数年して出家していた主人公。
「あちらにいる鬼」を
思い出したのは仕方ない。
そしてこちらのほうが余程出家に
説得力があるように感じたのも仕方ない。
この先は本感想冒頭の展開。
何に手を合わせているか
教えられていないに違いない主人公の
清々しい表情がラスト。
エンドロールで流れるのは般若心経。

嫌なもん観たわー。(絶賛)
これ撮っちゃったら
もうこの先撮るものなくない?
ってくらいに濃い作品。
満足度高い。

でも不満点がみっつ。
ひとつめ。
脇の役者の芝居がイマイチ。
ふたつめ。
入院時に交通事故以外の負傷もあったはずだが、
輪姦被害についての言及がなく、
交通事故での加害者からの補償の話もない。
これらを入れると主人公の環境の地獄に
悪い意味でのリアル感が出るから
端折ったのかもとは思う。
みっつめ。
寺での説教がもう少しタイトなら
もっとよかったのに。

パンフレットに、
主人公宅に投石したのは警官役の人で
その後主人公を助けに入ったので
自作自演と書かれていて、
なんだか心が軽くなった。

ケイズシネマかアップリンクな雰囲気だけど、
ヒューマントラストシネマ有楽町で上映。
不思議。
緑