緑

94歳のゲイの緑のネタバレレビュー・内容・結末

94歳のゲイ(2024年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

94歳ゲイ男性・長谷忠の
密着ドキュメンタリー。

同性愛が病気とされてきた時代から
親きょうだいとも疎遠にして孤独に過ごし、
晩年になって同性愛者である
男性ケアマネージャーと信頼関係を築いて
彼が主催するLGBTの集会に出向いたり、
テレビの取材を受けたり、
番組を見て連絡してきた
東京の63歳ゲイ男性とゲイ友になる話。

長年に渡る長谷の苦悩も、
急性心不全によるケアマネージャーの
突然の死による喪失感も
自分の想像を絶するものだったろうが、
長谷の言動はチャーミングさを失わない。
ともすれば陰鬱な老人になっていただろうに、
軽やかな笑顔や仕草に救われる思いがした。

牛乳を冷蔵しないのは如何なものかと思うが、
長谷は至って健康であり、
ひとりで出掛けられるし、
ひとりで入浴できるし、
新型コロナに罹っても重症化しない。
63歳のゲイ友と会って話して
一緒に銭湯にも行けたのは健康あってこそ。
ゲイ友に達筆でしたためた手紙は、
長谷が初めて相手に届けた
一種のラブレターだと思う。
手紙の返事をサインペンを使って
大きな文字で書くゲイ友の思いやりに涙。
それを受け取って、
ゲイ友との交流を「奇跡」と噛み締める
長谷の表情にも涙。

1920年代に発行された
「変態性欲心理」「変態性欲論」という
学術書を皮切りに定着してしまった
同性愛=病気というレッテルから、
1971年に発刊された「薔薇族」の意義と
同誌を万引きして捕まって
すぐに投身自殺した少年の悲劇、
レインボーパレード
(日本では1994年スタート)、
名言はされないが映像が饒舌な
集合住宅の一室でのハッテン、
大阪のゲイバー密集地や
ゲイバーの人々の現代のゲイ観まで、
日本に於けるゲイの歴史も
一通り網羅されていた。

伊藤文學もご健在で何より。
緑