このレビューはネタバレを含みます
スーパー・ド傑作。
冒頭のアニメシーンから(アーサーは弁論をルーニー・チューンズのポーキーのように終わらせるのだが)ずっと一貫した話をしているのでかなり見やすい。
アーサー・フレックという可哀想な男がジョーカーという重すぎるペルソナを負わされて破滅するまでをレディ・ガガ演じる、こちらもやはり結局大したことのないハーレイ・クインとの虚実入り混じるミュージカルで描く。とても良いアイデアだし、かなり成功していると思う。歌のシーンはアーサーの妄想であることも多いのだが、さっきまで話していた人間がいきなり歌い出すという非現実的な違和感はそのままプロット上の意味を持つ。ハーレイが歌うのは結局のところジョーカーという虚像しか見えていないという意味での、現実(可哀想なフレック氏)の否認であるわけだし、アーサーが「話してよ」と言ってもハーレイは歌うだけ、というあの残酷極まるディスコミュニケーションにそれは結実する。
アーサーが、今までジョーカーとして描かれてきたような犯罪のカリスマなら、彼にとって事態が好転していた、つまり自由の身が手に入ったポイントがいくつかあったのも面白いし、残酷だ。アーサーがジョーカーなら映画鑑賞会での火事で逃げ出していただろうし、裁判所が爆破されるのも彼の計略のうちで、まんまと逃げ仰せていただろう。でもアーサーはそうではない。
JOKERという響き。そもそも、JOKERなのにJOKEがちっとも面白くないことが、彼がJOKERの名で呼ばれるたびに思い起こされる。