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命の満ち欠けのarchのレビュー・感想・評価

命の満ち欠け(2022年製作の映画)
4.5
日本に生きる若者の抱える暗部を映画として立ち上がらせる試みは、昨今のインディーズ作品で流行しているイメージなのだが、その中でも異質。抽象性の高いダークファンタジーを緩衝材として挟むようなことも無く、ただひたすら社会の底辺に生きる"欠けた者"の煉獄のような日常を描写している。
欠けた人に、生きててよかったと思える日は来るのだろうか?
生きるのには理由がいる、生にしがみつくには何か、楔のような何かがいる。"どう生きるのか"、"どうすれば生きていいのか"という、切実な自問はこの映画を多分見ることのないだろう人々にとって死活な自問なのだろう。
この映画は「こんな映画を見ても当事者はみない、そんな暇があったら直接施設にいって手伝いでもした方がいい」という身も蓋もない視点を真っ向から取り入れる。そんなある種の無力さを理解しつつ、それでもこの映画が存在するのは、もしかしたら救いになりうるかもしれない、表現が人を救うかもしれないという見地にしがみつくからだ。それは自分が思う社会問題と映画の関係性を的確に表している気がするのだ。


電話番号が頭から消えない。多分体験談に基づく事実なのだろうが、そこにはある種の現実から逸脱したリアリズムがある。そのリアリズムは売人であるスーツの男の異質さや自立支援施設のクローズド故の異質とも繋がっていて、どこか浮世離れしている。だがその浮世離れ感は紛れもなく日常潜むもので、我々の日常にも潜むものなのだろう。ある種の異化効果によって、日常の見ようとしてこなかった部分に立ち入ってしまったような感覚に襲われるのだ。

この映画の恐ろしさは現実の延長線上にあることにあり、そして映画や観客はその問題に無力で、ただ問いかけることしか出来ない。そして問いに答えがもたらされることを願うしかない。
「人生生きててよかったと思える日は来るのでしょうか?」と。
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