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ちひろさんのmizukiのレビュー・感想・評価

ちひろさん(2023年製作の映画)
4.9
コンパスで刺されたり公園で人目を気にせず一人で遊んでいて写真を撮られててもへっちゃらだったり、死んでしまった鳥を埋めたり、ホームレスの人に何も飾らず接することができたり、そういう優しいことは私はできないけど、私の人生か…?って思うくらい共感する部分も多くあった。相手が「何かしてもらった」って認知できる施しはしてあげたくない(善意はあからさまにしたくない)ところ、転じて、相手に気を遣わせないように、気を遣っていない態度でいるところ。あと、サバの皮とエビのしっぽを食べるところ(笑)そういう、誰かに褒めて欲しいとかではなく個人的に守っていることを、なんかいいよね!って捉えてくれているこの映画すごいなって……。優しいよ、製作者。ちひろさんみたいな人間が主人公になることって、そんなにないんじゃないかなあ。
ちひろさんはあっけらかんとしてるけど実はとても繊細。逆か、繊細だからあっけらかんとできるのかな。優しい人からたくさん愛情を受けていてもたまに暗いところに落っこちちゃうのは、嫌なことは、楽しいこととか嬉しいことで穴埋めできるものではないからだと思う。誰かに何かされたわけじゃなくても、この社会を生きるだけでなんとなく心が削られる。そこで人にしがみつくのもなんか違う。人間に粘着質になろうと思えばいくらでもなれる、でもそんなことしても誰も得をしないって色々考えたらわかるし。「人の心を独り占めすることはできない」よね。成り行きで体の関係を持つことはある、でもお互い好きとかじゃないしまた会うこともほぼないってわかっているからなんの偏見もなしにただ今この瞬間を大事にできたりする。で、お互いに日常生活の愚痴でも言い合って、明日からうまく行くことを願って別れてそれっきり。逆に清純なんじゃないかなって思うことある。
来るもの拒まず、去るもの追わず。急に誰かが目の前に来ても驚くことはない。人間も猫も同じ。その人が普段どんな職業で何歳かもどうでもいい。今この瞬間、目の前の人がいいなって思えればそれだけでいい。話さなくてもただ隣にいるだけでも。会話は、その人らしさを感じるための道具でしかないかなあ。まあでも、私はあえて職業とか肩書き系は聴くけどね。その人らしさを知るための、過去の話を聴くきっかけになるから。どういう経緯で今の職業について…実は学生の頃からこんなことを考えていて・こんな楽しいor悲しい出来事があって…みたいな。過去の経験は全て、その人の現在の、善悪の判断の根拠になっている。だからちひろさんも、風俗嬢だったことを隠さないんだと思う。自分の人格を形成した、過去の一部だから。まとめると、過去の話は、聴く必要はないけど隠す必要もないってことなんだろうなって。聴かれるまで答えない、聴かれたら隠さない、が、私にとっては一番いい。これは、好感が持てるコミュニケーションの取り方として心がけるようにしていること。ガールズバーでバイトしてた時、恋愛経験が一切ないのに「最近夜の方はどうなの?」みたいなの頻繁に聞かれて、「処女です」って言ったら引かれるかな…?って困ってて、先輩に相談したら「乗るか乗らないかどっちかにしろ!わからないならわからないって答えるべき!中途半端が一番だめ。つまらないから。私は下ネタ好きだからのる!」って言われたのがきっかけですね(笑)衝撃だった。潔く経験がないことを言った方が、確かに話は弾んだ。引いてきた人は一人もいなくて、単純にそうなんだ〜って受け入れて、色々教えてくれたりした。懐かしいなあ、今や完全に下ネタに乗る側になってしまいましたが…。下ネタに限らず有効な話法?です。

この映画で大事にされているものは、私も大事だなって思う。澄んだ油、とれたてのたけのこ、お店で剥いた栗、尻尾まで食べられるくらいしっかり揚がったエビフライ…お弁当屋さん、一つ一つ丁寧に作ってるって描写で訴えてくるのやばかった。初めて作った海苔巻き、それを許可もなくちょうだい!って一個とって食べるちひろさんの行動の優しさと正しさ(無性に泣いてしまいましたこのシーン)、初めて人に作ったであろう少し不恰好なおにぎりとそれを屈託のない笑顔で食べるマコト、チープな材料がてんこ盛りの熱々の焼きそばを泣きながら食べるオカジ。血の繋がった人よりも、通じ合える他人に時間や手間を割くこと。常識的にはまだまだ認められない部分もあるけど、大事そうに映してくれたことだけで救われる人がいるだろうな。
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