Omizu

ちひろさんのOmizuのレビュー・感想・評価

ちひろさん(2023年製作の映画)
3.9
『愛がなんだ』今泉力哉監督が同名漫画を実写化した作品。

賛否両論言われていて、そのどっちも分かる。でも僕としては非常に心が洗われるような好きな作品だった。

元の漫画はさわりだけ読んだことがあったが、まさか有村架純にあてられるとは思わなかった。

しかし実際に観てみると有村架純以外のちひろさんはあり得ない、というくらいハマり役だった。いや、有村架純がそのままちひろさんと言っていいくらい自然体で演じている。

今泉力哉監督らしいペーソスとスローな人間観察映画。

ちひろさんが周りの人を癒やしていく、というわけではないと思う。もちろんちひろさんの優しさによって救われる人もいるが、安易に解決させないあたりは流石今泉さん。

「わたし、そんなに優しくないですよ」と言うが、突き放した描写もあるしぎょっとするような行動をとることもある。少なくともちひろさんを聖人にしてはいない。

彼女自身の生き方に関しても仄めかす程度に描写がある。それをみるとますます聖人じゃないちひろさんに親近感が湧く。

裕福な完璧な家庭、故に息苦しさを感じている女子高生、シングルマザーではあるが母の愛は自覚している少年など極端ではないがなんとなく噛み合っていない人間関係を描くのが上手い。

彼らはゆるやかにコミュニティを構成するものの、そこに固執はしない。中心であるちひろさんが抜けておそらく空中分解しただろう。

それでも彼らは前より生きやすくなっただろう。日本社会の規範で生きるよりも、少し楽に生きたほうがいい。それをこの作品は伝えているように思った。

色んな意味で息苦しさを感じていたこのところ、ちひろさんの言葉に救われる部分はたしかにあった。

今泉力哉作品らしく、人間関係の面白さが描かれつつ、こんな生き方だって否定できるはずがないよねという彼らしい作品だった。キレイなだけではない、それが故に人は優しさを必要とするんだな。本当の意味で癒やされる一作だったと思う。
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