金魚鉢

少女は卒業しないの金魚鉢のレビュー・感想・評価

少女は卒業しない(2023年製作の映画)
4.1
『あの頃感じた別れの季節の儚さ』

キラキラした青春映画とは一線を画す、高校卒業を経験した大人たちに向けて作られた映画だったと思います。藤原季節演じる教師のような距離感で見てしまい、少女たちの成長と卒業式間近の繊細な空気感に当時の記憶が思い起こされ、終始懐かしさを感じる作品でした。校舎が取り壊されるという要素もよりセンチメンタルな感情にさせられました。また、アドリブなのか喋るときに時より言い直したりするのが台詞ぽくなり過ぎていないので、序盤の何気ない会話は高校三年生のドキュメンタリー見てるくらいのリアルさがありました。後半にかけては、それぞれが卒業式当日まで抱えていた悩みが、ちょっぴりドラマチックな展開で答えに辿り着いていく様子が切なくも愛おしかったです。

いつもは群像劇あまり得意じゃないけど、卒業式前日と当日の2日間の生徒の想いにスポットを当てたテーマとの親和性が高くて今作は凄く良かった。各々のパートが薄まりがちなところが苦手なのですが、この映画に限っては、かえって一人を描きすぎるよりも、それぞれに異なる背景をもった卒業生が抱える三者三様な悩みと心情の変化が捉えられているので、どこかしらのパートで見た人が共感できるような魅力に繋がっていた。全ての組み合わせに見所がある中で、やっぱり河合優実の存在感は圧倒的だった。どの役、どのシーンにおいても常にしっくりくる口調と表情で演技されていて毎度のことながら圧巻。個人的に最初の家庭科室のお弁当のシーンでの掛け合いが最高でした。

子供なりに精一杯悩んだ経験がいまの自分を作っているということも改めて教えてもらった気分。「良い時間を過ごしたからこそつい戻りたくなってしまうような記憶」と「もっとやれたはずと思うからこその後悔」。新生活を目の前に過去を振り返りながら進もうとする彼女たちの葛藤は、まさに"卒業しない"という題名がしっくりくる内容でした。
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