このレビューはネタバレを含みます
当事者の口からも語られてこなかった事件をこうして形にして残す覚悟は計り知れない。
差別する側/される側という単純な二項対立に落とし込むことなく、事件に関わったすべての人間の弱さ・後ろ暗さに眼差しを向ける。
たとえば差別的待遇を受けてきた讃岐の行商人たちの間でも、朝鮮人に対する一人ひとりの差別意識は決して一様でなく、グラデーションをつけて描写されている。安易な図式化を徹底して避けていると思う。
福田村の人々、朝鮮の人々、讃岐の行商人たち、それぞれが用いる言葉遣いについて、安易に観客に向けたアレンジを加えない、余計な親切を施さない、という姿勢も誠実だと思った。
静子まわりの描写は、私もやや冗長に感じた。ただ、「あんみつ食べたかった」のような台詞から感じ取れる軽薄さや、自らの身分に対する無自覚さは、事件発生後の態度と比較するうえで鍵となるような気もする。
智一が懺悔する場面は壮絶で、このシーンだけでも映画の価値が担保されているように思う。