カタパルトスープレックス

福田村事件のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.0
まず、この題材で映画を作った森達也監督にリスペクト。なぜ日本が戦争を続けてしまったのか、それを振り返ることなく加害の歴史から目をそらし続けるのか。とても重要なテーマなのに日本の映画界が無視し続けてきたテーマです。

日本の敗戦を考える上で、日清戦争まで遡ることは非常に重要です。日清戦争で台湾が併合され、日露戦争で韓国が日本に併合されます。日本の外国人差別のルーツです。本作の舞台である関東大震災で日本人(軍隊ではなく一般市民)が中国人や韓国人を虐殺する背景はここにあります。さらに、日本の国内差別の歴史はもっと長く、根が深い。

本作にはこのような日本の差別を凝縮していっぺんに見せようという野心的な試みだと思います。日本映画界はずっと日本を戦争の被害者として描いてきました。『ひめゆりの塔』、『火垂るの墓』、『はだしのゲン』などなど。加害者として描いた映画作品はほとんどありません。可哀想な日本人。自分たちは悪くない、被害者だ!本作はそういう意味でエポックメイキングです。それだけでものすごい価値があります。

ただ、映画作品としては色々とダメな部分が多いのも確か。有名キャストを配置するには必要な演出だったことは理解できます。主役の井浦新、田中麗奈や東出昌大やコムアイはテーマを描くのに全く必要のない要素でした。必要だったのは永山瑛太だけ。恩田楓も必要なし。観客を集めるためとはいえ、無駄な要素が多すぎる。

でも、日本人が本当の意味で戦争を振り返るきっかけとなる作品となれば、ものすごい意義があると思います。