Binchois

福田村事件のBinchoisのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
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ジャニーズの性被害問題の報道が加熱するにつれ、僕の胸中には敗北感が滲んでいった。具体的に何かできたわけではない。でも、知っていたのに、芸能界なんてそんなもんだと落とし込んでいた。そこには蔑視があった。

本作の終局でも、同じような敗北感を覚えた。熱狂から我に帰った人、蛮行を止められなかった人、事件を伝えられなかった人、傍観していた人、皆の表情に敗北感が浮かんでいる。
きれい事ではなく、我々は然るべき時に声をあげなければならないのだ。さもなくば、人が殺されてしまう。本当に。
今を生きる僕は、もう負けたくはない。

危機が近付くにつれ、一座の無事を願う観客の気持ちは高まるだろう。しかし、何かがおかしい。正義の側に立っているはずなのに、どこか虫の居どころが悪い。
その理由を、座長の瑛太が喝破する。人間がいかに差別に傾きやすいかを、実証的に理解させられる。
物事は見る角度によって全く様相が変わる、ということを丹念に追究していた森監督が、優れた群像劇を撮ったのは必然と思える。
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