湯っ子

全身小説家の湯っ子のレビュー・感想・評価

全身小説家(1994年製作の映画)
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瀬戸内寂聴氏の訃報を受けて、というフォロイーさんのレビューから鑑賞。
この作品の存在は知っていたが、恥ずかしながら、井上光晴の作品は未読。昔、瀬戸内晴美名義の「花芯」は読んだかな。

秀でた才能を持ち、貧しく不幸な出自であり、ひとの愛を求めひとを愛し、子供みたいにわがままでだらしない。
井上信者とも言える「文学伝習所」の生徒たちが、そんな彼に恋してしまうのも無理はないと感じる。私もそばにいたらヤバい。きっと、この中に出てくる頬を染めて語るオバちゃんみたいになってしまう。
彼が自ら語るドラマチックな人生は虚構に満ちているけど、それは信者に対するサービス精神だったり、親愛の情であったり、つまるところ「愛されたい」というとても純粋な気持ちなのかもしれない。あるいは、彼にとっては真実なのかもしれない。「嘘つきみっちゃん」の語る物語は哀しくも美しい。だから、嘘とかホントとかはどうでもいいのだ。
癌と闘う彼に健康食品を売りにきた胡散臭い男性の話しっぷりを見ると、やっぱりこれは井上氏の嘘とは違うと思う。この時居合わせた寂聴氏の表情が面白い。そんな寂聴氏の弔辞はいちばんの面白ポイントだった。彼女の大往生を経て、さらに名シーンとなる。ふたりは似た者同士、あの世でも仲良くね。
湯っ子

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