YACCO

正欲のYACCOのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
4.0
「あゝ、荒野」の岸善幸が監督と聞いて俄然興味が出た。
あの映画を作った監督が、このテーマに挑むのかと。(そして、脚本にも「あゝ、荒野」の港岳彦が名を連ねている)
「あゝ、荒野」は前後編ということもあり、いささか長く感じてしまったのと、一部エピソードに入り込めなかった自分がいたのだが、今作は134分というやや長尺ではあったものの、長く感じることはなく物語にひきこまれた。
複数の視点で描かれていく、それぞれが生きる社会とそのなかで己のみが抱えているだろう苦悩。
それも、その苦悩は「性」にまつわることであるのだから、胸に抱えるその苦悩や不安を簡単に口にすることなどは憚れ、ひとり抱えて苦しむことを選ぶ彼ら彼女たちの気持ちも容易に想像ができる。
うまくいかないひとつひとつに私も歯がゆさを感じたり、なぜ、そうなるのかと思ったりもするけれど、じゃあ、こうすればいいという明確な活路も見出すことができない。事はまさに一筋縄ではいかないのだ。
そのことごとくうまくいかない難しさが見ている側に「考えろ」とメッセージを投げかけてくるようだった。
彼ら彼女たちが見出した一筋の光明にすら、ひっそりと一筋の光が消えないように大切にしているものすら、守ることが難しいと知ったとき、その揺るがない姿に一体どちらを「正」とすべきなのだろうか。
ラストシーンはこの映画のテーマでもある大きな問いを投げつけられたようだった。
YACCO

YACCO