フクイヒロシ

西部戦線異状なしのフクイヒロシのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
5.0
とりあえず5にしますね。
だってこれ5じゃない?
5じゃないの?

「戦争映画だけど観客を喜ばせるために美女との恋愛パート入れとくか」みたいなシーンがない。

映像もすごいんだけど
「映像すごいっしょ!俺らすごいっしょ!」感がない。

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『西部戦線異状なし』は1929年1月に出版された小説。

「反戦文学とも解釈できる。それ故にナチ党政権下では所有が制限され、(作者の)レマルクもユダヤ系、非国民、フランスのスパイなどと言われのない迫害を受け、最終的に国外亡命を強いられた。」Wikipediaより引用

1930年代初頭にナチズムが台頭してきたとのことなので、
「また戦争に突入するかも」という空気の中で小説『西部戦線異状なし』は読まれていたわけですね。

そして翌年1930年にはアメリカの監督ルイス・マイルストンによって映画化。
映画版『西部戦線異状なし』は第3回アカデミー賞最優秀作品賞など受賞。

だから『西部戦線異状なし』ってのは〝戦前〟の映画なのよ。
戦前に「いやいや戦争って地獄だよ…やめようよ」って作られた映画なんよ。

それがまたいま作られたんよ。。

***

『西部戦線異状なし』(1930)は見たつもりでいたけど見てなかったですね。
西部戦線をドイツ側から描いてる話なんですね、それさえ知らなかった。

中学の社会の授業で『西部戦線異状なし』(1930)を見せられたんですが、怖すぎてずっと下向いてました。。
だから全然観てなかった。

でも、
『彼らは生きていた They Shall Not Grow Old』とか
『つばさ』とか
『1917 命をかけた伝令』とか
『戦火の馬』は観てたから知ってるつもりでおりました。。

観なきゃね、『西部戦線異状なし』(1930)。

***

ちなみに今作『西部戦線異状なし』(2022)は『1917 命をかけた伝令』よりも圧倒的に素晴らしい。

ドキュメンタリー映画『彼らは生きていた They Shall Not Grow Old』(2018)に匹敵しそうなくらいに素晴らしい。
(匹敵はしない。するわけない。『彼らは…』は事実だから。実物だから。全部。死体とか傷とかが。。)

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さて、今作『西部戦線異状なし』(2022)、題材が題材だけに言いにくいけど面白い。。

ネズミの大移動とか連合軍の戦車の登場とか。
本当に申し訳ないけど映像的に面白い。。
そして、繊細で人間的な描写の積み重ねがあって人間ドラマとしてもとても最高。

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時は1918年。
でも劇伴はビッキビキ。
重厚なオーケストラ、もしくは悲しげなピアノが流れそうだけど、否!
ビッキビキの電子低音が響く。

つまりは昔話ではないと言ってるわけです。
全然現代の話。今の話。

特にラストがホントに現代っぽすぎてうんざりする。。
今作った理由がよくわかる。
しかもドイツが作ったわけでしょ。。もうホントに。。『西部戦線異状なし』(1930)になりませんように。。

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歯が汚い。素晴らしい。

昔の戦場にいるのに俳優の歯がめっちゃ白いとかめっちゃインプラントとかだと冷める。
歯を抜けとかガタガタにしろとは言わないけど、真っ白ツルピカは冷める。

この映画はみんな歯が真っ黄っ黄。
素晴らしい。

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1918年の西部戦線
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E9%83%A8%E6%88%A6%E7%B7%9A_(%E7%AC%AC%E4%B8%80%E6%AC%A1%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%A4%A7%E6%88%A6)#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB%3AWestern_front_1914.jpg


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靴職人のカットが良かったですね。
俳優さんはアルブレヒト・シュッフ(Albrecht Schuch)さん。

目がキレイだった。この人が同じチームだったどれほど心強いか。安心して心を寄せられる人物。
温かな演技だけではなく、手榴弾を防空壕に投げ入れた後の表情さえもいい!(巻き戻して再生したくらいに)
最初から最後まで素晴らしかった。この人の映画だったのではないか。

***

ロケもいちいち良かった。
神秘的にも見える森の中も、廃墟の街も、絶対一回も行きたくないと思う塹壕とか、野戦病院と化した教会とか、高級そうな寝台列車とか。

冒頭、キツネでしたね。
そう森は彼らのものだった。

ロケが豪華だった。。

ドイツの気合いを感じる。
何の気合い?
反戦だろうよ。


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ラストネタバレはコメント欄に。