ハヤシ

西部戦線異状なしのハヤシのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
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「戦争は女の顔はもちろんのこと、男を含めたあらゆる性別の顔もしておらず、つまり人間の顔をしていないのだ(略)」

とは、逢坂冬馬さんの著書『同志少女よ、敵を撃て』に三浦しをんさんが寄せた文章の一部であるが、戦争映画を観るたびにこの言葉を思い出す。戦争は人間の顔をしていない。少なくともここがまさに戦場といえる場所にいる誰かの顔をしているということは絶対にない。

どちらの国が勝ち、どちらの国が負けるかを上層部が悠長に決定している間、実際の戦場で行われているのはどちらの人が殺し、どちらの人が殺されるのかということ。たとえ相対する両者が、同じように戦いたくないという意思を持っていたとしても、目の前に自分を殺そうとする者があれば、自分がその相手を殺さざるを得ないのだ。そうするより他に道はない。そしてそれは、「やめ」の言葉で止められる程度のものなのだという惨さ。一人ひとりの殺し殺されと国の勝敗というのは確かに繋がっているのかもしれない。しかしそれぞれのいかに乖離していることか。戦場から戦局は見えず、戦局から戦場は見えない。

国が勝ったところで、個人としては死ねばそこで終わりだ。現代を生きるわたしは疑いもなくそう思うのだけど、作中にあったのは戦後どのように生きるかを想像できない者たちの姿だった。戦争というものがどれほど残酷に未来を奪うのかということについて、改めて考えさせられる。

冒頭からあまりにもエグい事態の連発だが、締め方には文字通り震える。この有様でも「異常なし」と報告されるのかと思うとやるせない。

「兵士に志願したことで君たちは将来も評価される」、そんなわけがあるかよ。
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