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フェイブルマンズのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.7
私的副題【「えいがのこ」】

映画界の巨匠スティーブンス・ピルバーグの自伝的物語。

スティーブン・スピルバーグに特別な思い入れがあるわけでは無い私ですが、この映画は特別なものになりました。大傑作。

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(ネタバレあり感想)
人一倍怖がりの少年サミーが、半ば強引に両親に説得されて映画館で『地上最大のショー』を観る場面から映画は始まる。
母ミッツィは「映画は美しい夢なのよ」と。
父バートは「映画というのは、1秒間に15枚の写真を連続して映写する 人間の目はその速さに追いつかないから写真が動いていると錯覚する…」と。別のアプローチから映画の魅了を伝える。 

あとあと考えると、息子サミーに映画を奨める謳い文句に父母それぞれ違った価値観を持つ人物であることが示されてある事に気づく。
この物語は、芸術的な価値を重んじる母親と、科学的・実用的な価値を重んじる父親、正反対のキャラクターである両親の間で板挟みになり引き裂かれる事がさり気なく示唆されている。
その手際の良さは流石としか言いようがない。

サミーは初めて観た映画「地上最大のショウ」のどこに魅了されたのか。 
それは、列車と車が衝突するシーンだ。
映画の美しさに魅了されたというより、この衝撃の恐怖が脳裏に焼き付いて、何も手に着かなくなり夜も眠れなくなるのだ。
このエピソードにスピルバーグ映画の原点が見ることが出来る。

見かねたミッツィは、彼にカメラを与える。「何か自分の思いのママに出来るものが必要なのよ」と。サミーは人目を忍んで模型の電車と車を動かして、衝突させる。それをカメラに撮る。
これが彼の初の作品だ。
スピルバーグの映画について【父性の不在】を言及する評論を目にした事があるが、映画を撮るきっかけを与えてくれ、父親に隠れて撮った最初の作品を最初に見せたのも母親。さもありなんという所だろう。

暗い部屋で自分の撮影した映像を手に写して観るサミーの恍惚とした表情。とうとう彼は、自分に取り憑いて離れない衝撃恐怖を自分の掌握下に置いたのだ。
すぐにカメラをくれた母親に魅せる。初の上映会で、初の観客だ。
ミッツィはその作品を絶賛する。
それは確かに、紛れもなく映画だったからだ。ちゃんと電車と車が衝突するシーン手前でカットを割り、カメラ位置を変えたりもしている。

カメラで撮影する事の楽しさを覚え、サミーは家族を登場人物にして次々に作品を作っていく。
妹達を使って沢山の、ホラー映画を作る所が興味深い。
人一倍、怖がりのサミー少年は、ここでも恐怖の対象をカメラを使い作品として閉じ込めて、恐怖する側から観客を怖がらせる側に回るのだ。
そうやって彼はカメラにより恐怖を克服するのだ。そうする事でした生きられないようにも見える。

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父親と正反対の価値観を持つミッツィは、音楽家だけでなく最上級の女優で模あったのだ。だからこそ、映画監督樽少年サミーは、最高の被写体である母親を美しく撮る。
最たる例がキャンプのエピソード。
夜の暗がりの中で車のヘッドライトを照明にして、ミッツィが妖艶に踊るシーンはうっとりと見入ってしまう。

(((この映画は、父親バート、母親ミッツィ、バートの友人で家族ぐるみで付き合い叔父さんのような存在のベニー、三人による恋愛三角関係模描かれる、
あの場面で、ベニーはミッツィの美しさを称賛するのに対し、バートはミッツィの美しさに酔いしれてはいるものの言葉にはしない、という対比も効いている)))

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家族の映画だけでなく、ボーイスカウトの仲間とも映画を次々に作製して才能を発揮するサミー。では、今作は映画トサミーの幸せな関係だけを描いたものなのかというと、そうではない。

最初の映画から受けた洗礼は、母の秘密に関してだ。前述した家族のキャンプ旅行を作品に纏める為にフィルムを切り貼りして編集している時に、サミーは衝撃的な事実弐気づいてしまう。ミッツィがベニーを見つめる視線が友人を見るそれではなく恋人へ向けるものなのだ。
映像は、見たい物だけではなく見たくない物も記録してしまう。
ミッツィとベニーの立ち位置、手の置きどころ、視線の表情は愛し合う二人そのものなのだ。映像の恐ろしさだ。

映画というのは編集の仕方によって造り手の思うままに観客を誘導できる。
家族向けに編集したキャンプ映画上映会は、家族皆に喝采された。

しかしミッツィに冷たい態度をとり、それを咎められケンカしたサミーは、その勢いのままにミッツィに「別の編集を加えた」キャンプ映画をミッツィに見せる。一番最初に映画を見せたあのクローゼットで、たった二人で。
狭く薄暗いクローゼットベニーへの秘めた愛情がしっかりと記録された映像作品を観るミッツィの呆然と表情を映し出す。
結果としてサミーは自作映画で映画と出会わせてくれた母親を傷つけたのだ。

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映画愛を謳った映画についての映画がここ数年、多く作られているけど、格の違いを見せつけられた。

映画を撮る事、観客に見せる事の、影響力の大きさや残酷さが、思っていた以上にしっかり痛描かれている所にスピルバーグの真摯さを感じる。
それと同時に映画の魅了をしっかり封じ込める。鑑賞中、その映像の美しさにうっとりと息を飲む瞬間が何度かあった。


ラスト近くでカメオ出演するアイツの可笑しくも説得力ハンパない演技は必見!
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