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フェイブルマンズのSPNminacoのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
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初めて映画を観に来た少年サミーに対し父親、母親の顔が180度切り返しショットで交互に映るその瞬間、サミーの目がカメラになる。これぞまさに映画!そしてそのまま、サミー/サムのカメラを通して語られていく家族の物語。それは夢と恐怖が背中合わせだ。
映画は怖いし、夢も怖い。『地上最大のショウ』でサミーの幼心に刻まれるのはそこか!というクラッシュ場面だし、サバービアで始まった家族を乗せたレールはクラッシュを免れない(人が映画で熱狂するのはクラッシュ場面だと『ホワイト・ノイズ』でも言ったね)。夢に生きるママとサム、現実に生きるパパと妹たち。パパとママとベニーおじさんが形作る3本柱の危ういバランス。冒頭で示すようにサムはパパとママ両方を、ママはパパとベニー両方を同時に得ることは叶わない。
人や芸術に夢中になってしまうこともまたクラッシュだ。時に夢は人を傷つけたり、犠牲を伴う。フィルムは正直で、見せたくない一面を露わにしてしまうこともある。だから度々サムは無自覚に残酷なことやらかしてるんだよね…。でも、夢の中でしか生きられない人もいる。といっても、それを美化したりはしない。ただユダヤ系ルーツと同じようにありのまましょうがない事実で、負い目に思うことなどないのだと。
面白いのは、サムは夢の機材をせっせとバイトしてお金貯めて手に入れました…じゃなく、毎回タイミングよく贈り物されてること。最後の夢の出会いもそう。それってママの叔父さんが言う「ライオン」、或いは飼い猿に餌を与えるようなものじゃないかと思う。ママもサムも心に夢という猛獣が棲んでいて、そいつが飢えると危険だからだ。そこを心得てるのが周囲の理解者で、「虎に噛まれるのは虎を尊敬しないからだ」(byロメオ南条)みたいな…結局これ『ジョーズ』に通じるよな…!で、ラストには若き猛獣VS伝説の猛獣で〆るというのが良く出来てる。さすが猛獣映画沢山撮ってるスピルバーグ。
自伝的物語とはいえ、サムのキャラクターはスピルバーグそのままではないだろう。男ばかりで撮る映画(「女を出せば面白いのに」)、バレーボールでクラッシュした彼を美しく撮影したビーチ映画、スピルバーグ映画でクィアと思われるキャラクターの葛藤を見るとは(そもそもスピルバーグがモデルみたいな美男をキャストするの珍しくない?)。GFとの場面も思わせぶりだ。
クラッシュに始まる「映画監督になるまで」のレールは真っ直ぐ一直線に伸びているのだが、サム自身はあくまでカメラであるおかげで、様々なジャンル要素や人間模様を横断する。そこが巧い。それぞれ打ちのめされて床で体育座りしてるサムとママの姿がそっくりなのも巧く、ママの弾く物哀しいピアノが通底音でずっと鳴り続けてる。あと、フェイブルマンが明かされるタイミング!
母ミシェル・ウィリアムズはもはや独壇場の芝居だけど、父親ポール・ダノとセス・ローゲン(逆『テイク・ディス・ワルツ』じゃん!)がしみじみと年齢を経た味わいを出してて驚いた。キャスティングの妙といえば、ジョン・フォード演じるデヴィッド・リンチ。リンチ独特の声と喋り方がこんな風に活かされるとは!これから地平線気にしちゃうなあ。
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