垂直落下式サミング

フェイブルマンズの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
3.5
スピルバーグが描く創作論。
映画に魅了された少年サミーは、映画監督になる夢を抱くようになる。そして彼は、自身の夢を本気に捉えていない両親との間で葛藤しながらも、さまざまな出会いを通して成長していく。
小さなアーティストの子供のころ、その時しかない感受性みたいなもの。足らなくて至らなくてピュアい。それをオトナの手管で再現しようとして、ある程度できちゃってるのは、さすがのスピルバーグ。
映画の楽しさを打ち出しつつも、他人を撮ることの暴力性と欺瞞にも言及していくのは、お気楽なクリエイティブわっしょい映画にはない無慈悲さ。その功罪を自覚したうえで、それでも撮りたいんだって、そういうヤツが名手と呼ばれる人になっていくんだろうな~と。
描かれるのは少年の映画作りのおはなしってことで、スピルバーグ監督の自伝っぽいから、作家色が強い作品だと思いきや、観ていてそこまで作家主義的なものが伝わってきたかと言われると…、うーんとなる。
主人公の男の子が、いいこで優等生っぽいのが気になった。スピルバーグ本人は、若いころからメチャクチャなヤツなんだから。ちょっと小綺麗に思われたいのかなって、こんなにキラキラさせず、恥ずかしい部分とか見せらんないような歴史とかガンガンさらけてたら私小説だと思いますけど、どっちかっていうとキレイめな商品として作ってんじゃないかな。
スピルバーグ御大が撮るんだったら、もう少し個人主義的な味付けでもぜんぜんエエよ。ヘタな創作より実話のほうが面白いんだもん。