ぽむぽむ

aftersun/アフターサンのぽむぽむのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
3.9
精神的に落ち込んでいる時にこの映画の批評動画を見て、(本編ではないのに)咽び泣いてしまった。誰かの死を連想させるので、影響を受けやすい人は気を付けて観た方が良いと思う。当時、家族の体調不良や、有名人の死のニュース、仕事の忙しさでかなり参っていたようだ…。

とはいえ、11月になり季節と共に気分も落ち着き、やっと鑑賞。批評を読んでいたから号泣を覚悟して観ていたけれど、思っていたよりも優しく、もちろん悲しいけれど、それ以上にカメラワークが緻密に作られているので映像として楽しんで観てしまった。カラムがギプスを外し、ソフィが本を読むシーンや、11歳の時大人になったら何をしていると思った?とソフィがビデオカメラで撮影しながら問いかけるシーン、カラムが何気ないソフィとの会話の途中で鏡に唾を吐くシーン。それらが巧みな画面分割で描かれていて、退屈なリゾート地のどこかチープなホテルもどこか懐かしく魅力的に映る。昔家族で旅行したとき、こういうなんとも言えない少しだるくなるような宿ってあったよなぁ、と思ったり。遊び過ぎて、疲れて落ち込んだり。そして、この時代にはスマホがないから、そんな静かな凪のような時間を味わうことができる。でも、父カラムにとっては凪を保つためにギリギリの努力をしていた形跡が窺える。
この映画は大人になったソフィが、ビデオカメラでの映像を通して記憶を辿り、あの頃の父の本当の心を想像する形になる。だから、監督が言うようにカラムが1人でいる時の映像は今のソフィの想像でしかない。あなたが今もいてくれたら、という気持ちは尽きない。記録を残して記憶をたどり、想像する、という、極めて映画的な映画。

一点、クラブでのダンスシーン(想像)でソフィとカラムが少しずつ近づき一緒に踊ったり、泣いたような怒ったような顔で叫んだりするシーンが何度も流れて、その映像はストロボでたかれたように描かれている。ダンスというモチーフを使い、はっきりと見せないための演出なんだろうけど、激しい光の連続が苦手なので残念ながら目を瞑ってしまった。ここはなんとかもう少しみんなが見れるようにして欲しかった…特に繊細な映画なので。

どのシーンも絵画のように美しいけど、一番印象的だったのは、カラムの腕のそばにチェキカメラで撮った写真が置かれ、ゆっくりと2人の姿が見えて来るところだった。
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