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葬送のカーネーションのshoのネタバレレビュー・内容・結末

葬送のカーネーション(2022年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

寡黙で話の通じない激渋じいさんと少女のロードムービー。おじいさんの立ち振る舞いはエルフというよりエントかな笑(わざわざ日本版タイトルを変えたのってそういうことだよね?笑)

とても心に残るいい映画だけど、説明がほぼないのでコンディションによっては寝ちゃうかも。幸いにも自分は集中して見ることができたのでとてもいい映画体験だった。

主役2人のセリフの少なさも相まって、周囲の人や物の言葉や音が際立って意味を持っているように思う。
特に分かりやすく印象に残ったのは、警察に捕まる直前のトラックの中で流れるラジオの会話。ペシミストが自分の人生観について語ってる。
「たかだか数百年で忘れ去られることに一体何の意味があるのか。何の意味もない。生きる価値などない。一番いいのは生まれてこないことだ。それでは、これまで成してきたことの動機はなにか?それは義務だ。」(うろ覚え)
おじいさんにとって妻との誓いを守ることが「義務」であり生きる理由にもあたる。
国境警備らしき人に「そんなことの為に少女と来たのか?何を考えてるんだ。土はどこも一緒だ。ここを通すことはできない。」と突っぱねられるが、当然おじいさんには響かない。土がどこも一緒なんて、それこそおじいさんにとっては何の意味もない事実だ。
そしてそんなおじいさんを静かに見つめ旅路を共にした少女の表情、眼差しが印象深い。。(子どもの権利とか考えるととんでもないジジイだなとは思うけど笑)

結局誓いは破られてしまったが、それでも、命ある限り自らの義務を果たさなければならない。そうして辿り着く越境の瞬間。
これまでおじいさんは少女に対し、寒さを凌ぐために棺桶に入れる等の最低限の配慮はみられるものの、基本的に優しい表情や声を見せることはなかったように思う。そんなおじいさんが、越境した自分を呼ぶ少女の声に一瞬苦悶の表情を浮かべていた。
それは生きる理由、義務が少女とは決定的に違うことを意識させられ、空間的にも意味的にも2人が別々の道を歩みはじめる瞬間の、何とも言い難い憂いの感情があったんだと思う。

義務を全うするおじいさんの行き着く先…聞こえてくるのは祭りの太鼓の音か…それとも銃声か…
個人的にメリーバッドエンド(解釈によって幸不幸が入れ替わる)の物語が大好きなのだが、本作もそれにあたると思う。とても素晴らしいエンディングだった。

試写会後のトークイベントでは、冒頭の会話にすら「匂い」というキーワードを示唆する意味がある(かもしれない)らしい。2人の表情にしか注目せず完全にBGMになっていたので、次見るときはもっと背景情報に注目したい。
絵的にも冬の荒野の情景はとても味わい深い。特に、葉の落ちた一本の裸木と一緒に何かが映るルックが多かった気がする。木は物語の夢や幻の中でも象徴的に扱われているので、そういうところを注目しても面白いかも。
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