柊

理想郷の柊のレビュー・感想・評価

理想郷(2022年製作の映画)
3.7
スリラーと分類されると私は観ないのだけど、移住者と昔からの居住者の諍いからくる軋轢故のスリラーであればと思い鑑賞。

何が1番凄いかって、移住者の奥さんだよね。夫が村人に殺された事は確実なのに、警察もあまり熱心ではない状態で、たった1人で遺体を探す。村を去ることもなくこれまで通り野菜を作り、新たに羊も飼いこの自分を1人にしたある意味忌まわしい土地に根ざそうとさえしている。
娘にもかつての友人にも理解されない中で、彼女のこころは折れる事がない。
それは何故なんだろう?夫が生きていた頃はそれ程主張の強い女性には見えなかった。
むしろ夫が村人とトラブルを起こす事を心配して、どんどんエスカレートする関係を諌めようとしていたようにも見える。

そして最悪の展開から、どのくらい時が経過したのか今ひとつ分かりにくかったけど、秋の森が雪の森に変わりそして更に季節は巡ったようにも見え、いったい何年後なのかも私にははっきりしなかったが、それでも変わらず過疎の村の中で移住してきた時と同じように暮らしている。もちろん夫を探しながら。この忍耐と信念。女性の強さが凄い。もっと他のアプローチがあったのではないか?と言う後悔も多少あったのかな?故にこの地で逃げずに生きていく。それが自分達が夢見た理想郷への裏切らない行為なのかとも思った。

トラブルになる夫と村の兄弟のやり取りは、大人が何故こんなにも他者を排除しようとするのか私にはなかなか理解できない。村人と新参者とはこんなにも分かり合えないものなのか?風力発電の賛否の問題があるとは言え…これ実話がベースだから、たとえスペインの田舎が舞台と言えど、日本の過疎地にも十分当てはまる案件だと思うと寛容という言葉がいかに重要かと思い知らされる。
寛容でさえあれば、この村にも新しい風が吹いたかもしれない。

諍いを起こした男達は、どっちもどっちな部分はあるが、殺人は犯罪だからね。これはきちんと罰せられなければならぬもので、結果妻と母の力による解決と見て良いのだろうか?妻が兄弟ではなくその母に話をしに行ったシーン。この作品のクライマックスだと思うけど、ちょっとグッときたね。女性ってすごいなって。

途中娘との言い合いも結構キツいシーンだったけど、荒野で1人考えた後の娘の行動がとても腑に落ちて、言い合ったけどお互いを思いやり合えた良かったと思った。

でもちょっと要らぬシーンも多くて、もう少し整理すれば尺は短くできたんじゃないかな?少し長い。
それに犬!何であんな意地悪な弟にてなずけられる?それが1番私は残念だった。あれは飼い主は凹むよ。
柊