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第三次世界大戦のYMのレビュー・感想・評価

第三次世界大戦(2022年製作の映画)
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細かく観れば観るほどナチ、ホロコーストののモチーフが使われていることがわかる佳作。『ゴールデン・ボーイ』とおなじくだんだんと取り込まれていく主人公。暴力、貨物車両、毒。ヒトラーというよりむしろチャップリンの『独裁者』のような演技。しかし、もっとも大きな問題は、ほんとうにあの女は死んだのか? ということだ。そこだけがポッカリとした穴となって見えない中心となっている。遺体は出ず、金の腕輪だけが唯一の証拠品。目撃者がおらず、何が起きたのかはすべてが推測である。『羅生門』のようなミステリーだが、こここそに、もっとも重大な批評性がある。
アドルノは「アウシュビッツ以後に詩を書くことは野蛮である」と言い、以後、『シンドラーのリスト』批判、『ショアー』、『サウルの息子』…‥等々、いろいろな映画がホロコースト表象に挑んできた。一方で、粗製濫発の感のある「第三帝国映画」もある。「ホロコースト/ショアー」は戦後あらゆる角度から見られてきた。がしかし、同時に、ガス室で起こったことは本質的には想像にすぎない。ほんものの野蛮さは表象不可能性の彼方にある。がしかし、詩は、映画は、文化はそこに挑まなくてはならない。
本作『第三次世界大戦』は、そういうジャンル映画の撮影現場で起こる事件を下地に、焼き殺された(のだと想像するしかない)女の存在を置くことで、いわゆる「ホロコースト映画」の批評性そのものの本質を提示するのだ。
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