デニロ

こんにちは、母さんのデニロのレビュー・感想・評価

こんにちは、母さん(2023年製作の映画)
3.0
家でひと暴れして靴の片方を間違えて走り去った宮藤官九郎を永野芽郁が追う。ようやく追いついた永野芽郁は呼びかける、おじちゃま!!『男はつらいよ』で、諏訪満男のマドンナ役の後藤久美子が車寅次郎に、おじちゃま、おじちゃまと常に呼び掛けていたことを思い出した。あれは気持ち悪かった。山田洋次は、おじちゃまと呼ばれていたのか、そう呼ばれたかったのか。

さて、宮藤官九郎。大学以来からの友人大泉洋に裏切られたと大騒ぎ。大学卒業後同じ会社に入社。今や大泉洋は人事部長で、宮藤官九郎は営業課長。製作に住友商事の名があったので、ふたりの勤務先は商社なんだろうか。永野芽郁が、母親に大学がつまらないというと、あんたなんかは、いい成績を取って、パパくらいの会社に入るか、いい男を捕まえるくらいしかないの、と言われ更に絶望したようなので、その言から相当の企業なのだと思う。さて、そんな企業に勤務する男が、同期入社とはいえ人事部長に、なんで俺がリストラの対象なんだと怒鳴り込むだろうか。大勢の社員のいる前で喚き散らすなんて醜態を見せるのだろうか。ご丁寧に休日実家にまで押しかけて喚き散らす。なかなかあり得ない振る舞いだ。

その宮藤官九郎、大泉洋の母親吉永小百合には、あの美しいという形容詞を繰り返し付けてお母さんと呼ぶ。おじちゃまと同じくらいに鬱陶しい。

その美しい母親吉永小百合。スカイツリーの見えるところで足袋を売る。近くの相撲部屋の力士もお得意さんだ。すでに亡くなっている夫との馴れ初めを孫の永野芽郁に聞かれる。プロポーズされたのよ。夫は戦災孤児、中学しか出ていない足袋職人で両親からは反対された。その足袋職人とは如何なる関係で知り合ったのか、その詳細の説明はなかったようなのだが、成人式の晴れ着が出来上がって浮き浮きしていた時、足袋はどうされますか、と聞かれたという。寸法を測るからと靴下を脱ぐように促され、そして、彼の手で足をさすられるうちに、この人と結婚するしかないと思った。そう話しながら吉永小百合は永野芽郁の足をさするのだが、その時の吉永小百合の肉感を永野芽郁も感じてしまったようで、も、もうやめて。なかなかエロイやり取りだった。

そんな吉永小百合ですもの。身近にいる紳士然とした寺尾聡にお熱になるのもそれは彼女の性というものだろう。北海道に転属する寺尾聡の旅立ちの日、わたしも連れて行ってと絶え入るように言う吉永小百合の息遣い。息子の大泉洋がそんな母の姿を見聞きして、勘弁してくれよ、と縋るように言うのも母親のエロスなんて知りたくもないからだろう。しかも、別居中の妻も、自分の知らぬところで女になっているらしいのだから。それは一層。そんな大泉洋を観て、加藤ローサを誘えばいいのにと、わたしは彼の悪魔の尻尾に息を吹きかけたくなる。

反戦思想、社内カースト、高度に発展した資本主義社会の経済格差というか貧困のあり様、若者の絶望いろんなものを詰め込んで作品全体は散漫な印象ですが、一番インパクトのあったのは吉永小百合の醸し出した老人の性。
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