ShinichiAndo

こんにちは、母さんのShinichiAndoのレビュー・感想・評価

こんにちは、母さん(2023年製作の映画)
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冒頭の何気ない東京の風景が映っただけで、小津安二郎監督の時代から続く“松竹映画”としての風格が感じられてワクワクしつつ、映画が終わって(ほぼシニアの観客が)口々に「面白かったね」ってニコニコしているのが良かった。コロナ禍を経て、こういう光景を見たのは本当に久しぶりだったので。

離婚やリストラといった中年の危機も、年老いていくことへの不安も、さらには社会の分断や格差の問題も、すべて“下町の人情喜劇”という架空の世界で起きているファンタジーを観ている不思議な気分にさせてくれる。そういう意味で、自分の中で山田洋次作品はウェス・アンダーソン作品と同じジャンルなんです。

世知辛い世の中だからこそ、ファンタジーとしての“人情喜劇”が老若男女(とくにシニア)には必要なのかもしれない。そして、ファンタジーを体現する存在として、やはり吉永小百合さんは特別な女優なのだと改めて思いました。本作が123作目の出演作だそうですが、まだまだいろいろな小百合さんを観てみたい。

また、リストラされるサラリーマン役を演じた宮藤官九郎さんの、ステレオタイプを突き抜けた強烈なキャラクターも、昭和の喜劇俳優っぽくて面白かったのと、ふたりのおじさんに振り回される加藤ローサさんも、まさにファンタジーとしてのOLといった雰囲気で素晴らしかった。
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