このレビューはネタバレを含みます
『春に散る』
ロッキー、レイジングブル、ミリオンダラーベイビー、どついたるねん、百円の恋。
ボクシングをテーマにした映画には、名作が多い。
それはたぶん、精神的に、肉体的に、役者が役に憑依するための舞台装置として、ボクシングが持つコンテクストがピッタリ合致し、最大のパフォーマンスを発揮するからではないか。
横浜流星は、元々が空手家だったとしても、紛れもなくボクサーだった。
ライバルの坂東龍汰も、エキセントリックで不気味なチャンピオン窪田正孝も、みんなボクサーだった。「Blue」の松山ケンイチもそうだが、役へのアプローチがどストレートなボクサー役は、きっとやり甲斐の塊なんじゃないか。
とすると、ハリウッドでボクシング映画が作られなくなったのは、憑依型俳優が老境に入り、ストイックな俳優の絶対数が減ってきたからなのかも。
『春に散る』は、若手の生き様は良かったし、佐藤浩一もいぶし銀の演技だったが、序盤の片岡鶴太郎と、全編通しての哀川翔が、はっきりと追いついていなかったと思う。
あと、パンチのスローカットは、本気殴りをスローにしないと説得力が低い。
それにしても、沢木耕太郎の原作は遠い昔に読んだ記憶があるが、あんな終わり方だったっけ…。